愛の実は心になる｜リアクション

愛の実は心になる

　ロープウェイの駅へと到着。
　ほどなくして到着したロープウェイには一人の女子生徒が乗っていた。
　黒髪のツインテールが印象的な子だが、降りてくる気配がない。
「あれぇ？　双葉仄ちゃんじゃん」
　八十八旗が声をかけると女子が振り返る。
「乗らないのか？」
　双葉は何事もなかったかのように言うと、再び反対側の景色を見つめ始める。
　皆は顔を見合わせ戸惑うも、ロープウェイへと乗った。

　九夜山展望台駅へ向かうロープウェイの中。
「……」
　とくに会話もなく微妙な空気が漂う。
　双葉は相変わらず立ったまま外の景色を見つめている。
「何か見えるの？」
　八十八旗がたずねると、
「……木下愛美が見ていた景色」
　双葉は振り向くことなくそう答えた。
「愛美ちゃんが？」
　八十八旗とコウも席を立ち、双葉に並んで窓の外を見る。
「どんな気持ちで見ていたんだろうね。彼女は」
「ふむ……きれいだなぁ？」
「ねぇ、木下愛美が残したっていうメモ見せてくれない？」
「あ、スルーされた」
　八十八旗を無視して双葉はコウからノートを受け取った。
「木下愛美ってどんな生徒なの？」
「え？」
「派手とか地味とか色々あるでしょ。なんでもいいから聞かせて」
「派手ではないけど地味ってほどでもないかなぁ。あまり目立つ子ではないね」
　コウの代わりに八十八旗が答える。
「そんな子がたかだか喧嘩しただけでここまでムキになるものなのか……」
「他に理由があるっていうのかよ？」
「さぁ。どうだろうね」
　双葉のもったいぶった言い方に苛立つコウ。

　九夜山展望台前駅に到着する頃には夕方を迎えていた。
「ん？」
　ロープウェイから降りたコウの足が止まる。
　夕焼けに照らされる大きな影が一つ。
「随分遅かったわね」
「うお、でっけぇ。なにこのお方は？」
　その迫力に圧倒される八十八旗。
「尾鎌蛇那伊。俺達と同じ一年生だ」
　後ろにいた御剣が出て説明する。
「あら、刀ちゃんも参加したのね」
「まあな。ところで他にはいないのか？」
「さぁ？　ここにはずっとあたしだけだったわよ」
　それを聞いた八十八旗がコウを見る。
「これで全員？」
「いや、あと三人来るはずなんだけど困ったな。まだ来ていないのか」
　乗り場周辺を探すコウだが、尾鎌の言うとおり他に人はいない。
「やれやれ。あいつどこまで行ったんだ……」
　御剣も小さく呟きながら周囲を気にしていたが、
「ねぇ、もう行かない？　このままじゃ時間ばかり過ぎるよ」
　晴海の提案にため息をついてみせた。
「そうだな……」
「ん？　御剣も誰か探しているみたいだけどいいの？」
「ああ。あいつのことだ。どうせ後からでも追いつくだろう」
「でも、これから山の探索は危険に思えるが」
　双葉が沈みゆく陽を見つめながら呟く。
「えー、夜の山なんてなんだかワクワクするじゃん？」
「暗闇だからこそのアバンチュールもあるわ」
　それぞれが好き放題言い合う中、まずは全員でメモにあった三夜湖を目指す。

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