fork in the road｜リアクション

fork in the road

「ノーノー、それ聞きちがいだよ」ののこは訂正した。「留学じゃなくて留年、高校四年生ってのもいい気がしてる。私って成績悪いしいけそうだよ。寝子高楽しいもん」
　まあそれはあのおじさんが認めてくれないかなぁ、とののこはぼやいた。ののこ言うところの『あのおじさん』とは『父親』こと野々ととお寝子高理事長のことである。
　でも、とののこは言う。
「たしかに留学もあるかもしれない。私の保護者だと言い張る変なおじさんが、私のこと無理矢理外国に送り出すかもしれないからねー」
「そんな……野々さん、そんな風まかせみたいなこと言わないでもうちょっと考えようよ。なんなら僕も一緒に考えるから」
　勢いでそう言ったはいいが、「なんで英二くんが私の将来のこと一緒に考えようとするの？」と冷たく返されるかもと思い一瞬英二は固まった。
　だがまったくの杞憂だった。
「お、それナイスアイデア！　考えて考えて～、プリーズ！」
　ののこは目を輝かせたのである。
『だったら僕と結婚しよう！』
　――なんて、言えるはずないよね。
　内心頭をかかえる英二である。
　いやもちろん野々さんのことは気になる女の子だけど、プロポーズとかそんな、気が早すぎるっていうか、そもそもまだ友達でしかないわけで、か、カノジョっていうか、恋人？　なんていう関係でもないわけで。だいたいこの時間だって夕食後に寮の食堂でお茶してるだけであってデートではないわけで……って僕なんだか脱線しすぎだよね明らかに。
　ののこが現時点で進路ノープランとカミングアウトした衝撃で、どうやら英二の思考にバグが生じてきたようだ。そんな英二にかまわず、
「で、どんなプランがおありですのご主人様？」
　なぜかメイド口調（？）になるののこなのである。本気で丸投げする気のようだ。
「ゲームじゃないんだからそんな簡単に決められないよ……」
　ゲームだったら『この選択肢、どっちが正解なんだろ？』と悩んでも、気分で決めてしまって問題はない。もし選んだ道で希望せぬルートに入り込んでしまったとしても、リセットすれば問題はないのだから。なんなら最後まで進めてクリアして、またいちからやり直すことだって可能だ。
　でも人生はそうもいかない。
　高校三年生のこの時期は今しかない。選択は、重要だ。
　と、思うのだけれど。
　英二はののこを見る。ののこはのほほんとしていた。英二の回答を聞いてもがっかりすることもなく、ぬるいお茶を自分の湯飲みに入れはじめていた。「英二くんも飲む？　おかわり」なんて言いながら。
　ひょっとしたら、気負いすぎてる僕のほうが変なのかもしれない。
　どうにかなるでしょと考えているのかな。
　実際、と英二は思った。
　どうにかなるような気がする、野々さんなら。
　楽天的すぎると非難する人もいるかもしれない。
　でもそれが野々さんの強みであり、魅力なんだ。
「じゃあ、野々さん」
「うん？」
「僕考えるよ、野々さんの将来、しっかりと。そして提案したいと思う」
「ホント！？　サンキュ」
「でも最終的に決めるのは野々さん自身だからね」
「うん」
「じゃあ、話は変わるけど」
　英二は口調をやわらげた。
「『海王星の魔女』、クライマックスだね」
　アニメの話だ。ロボットアニメ『機動戦士ニャンダム』の最新作である。
「そーそー！　毎回めまぐるしい展開でジェットコースター気分だよ」
「ゴアラの新作も準備中っていうし」
　今度は特撮の話題だ。ニャンダム同様ふたり共通の趣味である。
「『vsゴング』のつづき？　つぎは『大怪獣総進撃』って感じになるのかな？」
「いや、その海外シリーズとは別で、国内でも新作が予定されてるみたい」
「ウソー！　ジェットニャガー出る！？」
　ジェットニャガーというのはゴアラ映画に一回だけ登場したロボットだ。アゴと頭と目が尖った悪役顔ながらヒーローとして活躍する。ひろく愛されているとは決して言えないが、一部に熱烈なファンをもつキャラクターである。
「野々さんは本当にジェットニャガーが好きだなあ」
「いーじゃんカッコいーし♪」
　パンチパンチパーンチ、と謎の歌を唄いながらののこは立ってシャドーボクシングの動きをするのであった。
　これでいいよね。いまは。
　でも考えよう。野々さんのこと、本当に。
　僕は野々さんと過ごすこんな時間が好きだから。野々さんもそう感じてるはずだから。
　英二は思うのだ。
　来年どうなってるかもわからないけど、数年後でも同じようにこんな時間を持ちたいな。
　だからこそしっかりと考えて提案したい。分岐点のその先を。

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