fork in the road｜リアクション

fork in the road

　英二は木天蓼大学を受験予定だ。これまで三年間、抜群の成績ではなかったが、コツコツ勉強してきたからか成績は悪くない。文系科目、とくに国語の配点が高い学部学科を受けるので六から七割くらいの確率でなんとかなりそうだ。もし最初の挑戦がダメでも二次募集、小論文中心の学科にも願書を出してある。それでも失敗したら浪人する覚悟だった。正直、他県の大学は考えていない。
　来年も寝子島にいたいから。
　古いものと最先端のものが混在し、住民は個性的にしてお祭り好き、もちろん暗い面もないではないが、この島の未来はきっと明るいと思う。なにより島での毎日は楽しくて仕方がないのだ。木天蓼大学なら島から通えるし学部によっては島内キャンパスもある。合格すれば最低でもあと四年、ここで暮らすことができるだろう。
　だから野々さんの進路が気になるのかな。
　できればあと最低でも四年、野々さんと寝子島ですごしたい。
　友達として。
　そうだよ。友達、それで充分なんだ。
　でももう少し親しくなれたら……じゃなかった。
　英二は先走りそうになる想いを心の奥にしまいこんで鍵をかけた。
　英二にとって、ののこと寝子島はイコールとまで言わずとも、かさなって思えるところがあった。
　ののこがいない寝子島なんて想像すらしたことがなかった。
　だから。
　黙ってほほえんだまま、口を閉ざしたののこの反応が気になった。
　時間にすれば数秒だったかもしれないが、英二には重いひとときが過ぎた。
「ごめん、訊かれたくない話、だったかな？　だったら」
　忘れて、と言いかけた英二は、ののこが急に腕組みしたのでぎょっとした。
「うーん」
「さっきの質問は忘れてくれていいから」
「いやー、じつは」
　あははと後頭部に手をやってののこは苦笑いしたのである。
「まーだ決めてないんだよねー。進路」
「えっ！？」　　　　
「あおいちゃん（七夜あおい）ははやばやと九州の専門学校に推薦で合格したしー、みやちゃん（串田美弥子）は本土の音大受けるっていうしー、英二くんはマタ大受験、だよねえ。そうそう、マタ大といえばラッセルはん（桜井ラッセル）も」
「『はん』？」
「京言葉。なんとなく思いついたんで言ってみたんどす、英二はん」
　ののこの思いつきはいつもながら謎だ。
「雅（みやび）な感じでいいね」英二は調子をあわせておく。先を聞こう。
「で、そのラッセルくんもマタ大受ける……って言ってたような気がするけどどーだったかなぁ。えーと、あとよく外走ってる寛美ちゃん（詠寛美）は、武道場に職を見つけたって聞いた」
　他にも数人、友達の進路をあげてから、
「でも私は決まってない。ノープラン！」
　こんな時期の高校三年生とは思えない発言を、しれっとののこはしたのだ。
「私、なーんかさっぱり思いつかないんだよねえ。考え直して目指すとしてもあと一年は勉強しないとだめっぽいよ。専門学校もねー、調理も服飾もデザインも医療や福祉も、自分にひきつけて考えると、なんだかイメージわかないんだよねぇ」
「そうなんだ。……じゃあ、就職？」
「それもどうだろー」ののこはため息をついた。「手に職ないしー。やるとしてもフリーターかなあ。あと、留年も考えてる」
「留学っ！？」
　思わずガタッと英二は立ち上がってしまった。
　野々さんが寝子島からいなくなるなんて！
　それどころか日本からもいなくなるなんて！