fork in the road｜リアクション

fork in the road

　つつがなく出演は終わった。
　さっそく椎子やマネジメント会社から、『聴いたよ！』『良かった！　それに面白かった！』といったメッセージが届く。
　大きく息を吐いて理緒は言った。
「今回は紗月が完全に主役だったね」
「そんなことないよ。理緒ちゃんがひっぱってくれたじゃない」
「いやでも最後あたりのパワーワードが」
「パワーワードって」
　表現としてはまちがってはいないのだろうが、あらためて理緒に指摘されると気恥ずかしくなる紗月である。
　とにかくこれであとはオフだ。どこかに行こうかその前にランチはどうしようかと、楽しくふたりは言葉を交わしたが、
「ところで」
　紗月が言った。ジョギングに出る前に言いかけていた言葉のつづきだ。
「お母さんに聞いたんだけど、最近は実家の周辺に張りこんでる人、いなくなったみたいだよ」
　そっかぁ、と理緒は言う。意外ではあったが考えてみれば自然な話ではある。
「さすがにハロウィン☆デイズから一ヶ月経ったもんね。極端な連中も落ち着いたってことか」
　紗月は、そろそろ実家に帰るって話になるのかな。
　よくない流れだ。
　理緒は直感していた。
　だったら言おう。いま、言ってしまおう。
　決断すると同時に理緒は表情を硬くしていた。背筋をしゃんと伸ばし、勇気を出して打ち明ける。
「あのさ、紗月。よかったら、だけど」
「どうしたの急にかしこまって？」
　紗月にはその先が予想できない。先を促すだけだ。
　理緒は言う。
「一時避難じゃなくて、あたしと一緒にこの部屋に住んでくれない？」
「それって、正式に」
　その先をつづけられない様子の紗月にかわって理緒が言葉を継いだ。
「そう。正式に同棲しよう、って提案」
　こんなサジェスチョンが飛び出すとは思ってもみなかった。紗月は一瞬、目を白黒させたが、
「うん」
　すかさず答えた。
「そうしよう。理緒ちゃん」
「いいのっ！？」
　まさか即OKとは思ってもみなかったので、理緒の声はうわずった。
「武士に二言はないよ。武士じゃないけど」
　紗月にしてはおちゃらけた発言に、理緒もたちまち破顔した。あははと声をあげて言う。
「うちらの場合『グラドルに二言はない』になるのかな」
「それ事務所的にNGな仕事も受けちゃうって意味にならない？」
「闇営業上等、って？」
　こんなギョーカイめいた話を紗月とできる日がくるなんて、と、変なところで感慨深くなる理緒である。
　ぺたりと床に正座して、紗月はふかぶかとお辞儀する。
「では、これからも同居人として、よろしくお願いします」
　慌てて理緒も床に正座だ。
「こちらこそ、末永くよろしくお願いします」
「じゃあ」立ち上がると紗月は腕まくりするゼスチャーとともに言った。「理緒ちゃんと一緒に住むとなると、お部屋の模様替えとか考えなきゃね」
　どこから手をつけようかなあと言って見回す。
「え？　もう模様替えすんの？」
「思い立ったら即実行だよ。ちょうど休みだしね」
「休み……そうだった。明日になったらできないかもだよね」
　これからこうして、と理緒は思う。
　少しずつふたりで生きることを学んでいこう。
　私たちならきっと、と紗月は思う。
　なれるはず――最強のふたりに。