fork in the road｜リアクション

fork in the road

「仕上がりをご確認ください」
　クレマンティーヌに呼びかけられ想花は目覚めた。
「あ、ごめんなさい。ずっとぼく、グーグー寝てて」
「それだけ気持ちよかった、ってことだよ」
　紗櫻都が笑う。
「それより鏡、チェックしてみてよ」
「あ、うん」
　眼鏡を受け取り想花は真正面の鏡を見た。
　……誰この人？
　率直な感想だ。鏡のなかから見つめ返してくる少女は、想花の知る想花ではなかったから。
　大人びた少しアンニュイな美人。
　ベリーショートの髪型がクールだ。そのまま雑誌の表紙にできそうなほど。それもティーン誌というよりは、待合室に置いてあるようなファッション誌の。
「これぼくなの！？　ウソでしょ！？」
　思わず声がうわずってしまった。ちょっと美しすぎないか。
「想花さんはフェイスラインが美しいので、それを活かした髪型にしました」
　クレマンティーヌも満足げな口調だった。しかし物腰は謙虚で、けっしておごるわけではない。
　さすがプロ中のプロ……！
　おそるべしと想花は思う。そして、鏡のなかの自分にやはり慣れずしげしげと見てしまう。
「想花さん、似合ってるよ」
　とってもきれいと紗櫻都は言う。想花は頬を染めるほかなかった。
「ありがとうございました。すっきりしました」
　とだけ言葉少なに告げて、想花はヘアサロンを後にした。
　駅まで歩いて電車に乗って、その間もずっと、魔法にかけられたような気がしてならなかった。
　なぜって人の視線が、なんとなく自分に集まってくるからだ。男女年齢問わず子どもや赤ちゃんまでも。
　注目浴びるって、気持ちのいいものじゃないなぁ。
　でも帰り道は、髪がすっきりしたおかげでいささか寒かった。
　ここは南極ではない。まさか遭難はしないだろう。
　ただ、心もち早足になる想花だった。