fork in the road｜リアクション

fork in the road

　ドアを開けるなり、遥人が玄関まで迎えに出てきた。心配げに言う。
「遅くなったね。何かあったの？」
　メールは見ていたが、遥人は気が気でならなかったそうだ。仕事が終わって疲れているだろうに。
「ええと」
　朝衣はコートを脱ぎ、手を洗ってダイニングの椅子に座った。何も言ってないのに遥人が冷えたミネラルウォーターを持ってきてくれた。
「ありがと」
　やっぱお酒くさいかなあと思いつつ朝衣は水を飲む。五臓六腑にしみわたるとはまさにこのこと、肌がみずみずしくなるほどにおいしかった。
　あ、でも。
　気がついたことがある。
　あたし、よっしーに付き合ってあれだけ飲んだはずなのに、ぜんぜん酔いが回ってない。
　気持ちが妙に高ぶってたからかな。いまも落ち着かない。
　ゆえに八重佳の話は、細かいところまでよく覚えていた。
「ごめん、今夜の話だったね。じつはよっしーが彼氏と別れて。しかも今日……あ、日付変わったからもう昨日か」
　さすがに遥人も驚いたらしく、「えっ」と絶句して正面に座った。
　かいつまんでではあるが朝衣は顛末を話した。とことんつきあって八重佳をタクシーで送ったから帰宅が遅れたということも。
「そうだったのか」遥人は深くため息をついた。心底残念そうに言う。「ふたりは最高の相性みたいに見えたんだけど。男女の仲って、わからないものだね」
　話すべきことはすべて話したよね、あたし。
　なのに。
　なぜか再び高ぶるものを感じ、落ち着かなくなってくる。貧乏揺すりをしたいような気分だ。
　そうか。あたし、不安なんだ。
　男女の仲って、わからないものだね――遥人の言葉がトリガーになったのだと理解している。
　だってそうじゃない。いまはこうして同棲までしているけど、あたしたちだってもしかして……？
『ねえ、遥人……ここで別れ話を切り出したら、どうする？』
　そう衝動的に問いかけたくなったがこらえた。
　いまの気分でこんなこと訊けたものではない。
　そのかわり。
　飛びかかるようにして朝衣は遥人に抱きついたのだった。言葉ではなく態度で、欲しいと伝える。
　そのまま朝衣と遥人は、服を脱ぐ間ももどかしくベッドへともつれこんだ。
　待ちに待った週末だ。年末の貴重な週末、だからたっぷりと時間をかけよう。

　そのまま日曜の昼過ぎまで、ふたりは部屋に閉じこもり滅茶苦茶に愛し合った。