のんびりアルク｜リアクション

のんびりアルク

【愛にあふれて１１周年の世界】

「アルク、元気にしてましたか？」
　早川珪先生といっしょにおでかけ中な綾辻綾花。お久しぶりな白黒猫を見つけて、思わず駆けよりました。
「いい毛並みだね」
　と珪先生が感心したように言いますと、綾花はなんだか嬉しくなって、
「はい、とってもいい子なんです」
　ちょっぴり自慢げです。
　顔の広いアルク。綾花とも大冒険へ出かけた仲でして、顔を見るなりぺろぺろぺろ。すっかり懐いておりました。
「……うん？」
　さてアルクといえば、白黒毛並み。首輪にあしらわれた茜色の宝石……そこからぱちりと弾ける、茜色の光。世界から世界を股にかけての大冒険！
「あ。この光は」
　ぱちぱち。ぱちり！

　猫。猫。猫ねこにゃんこ。どっちを向いても、あっちを向いてもこっちを向いても猫だらけ！
「ほああああ……！」
　ついつい、胸から空気を絞り出すような吐息がもれました。綾花、大感激！
　なにしろアルクによって飛ばされたらしいこの異世界、とにかく猫まみれ。寝子島以上に多種多様で、白・黒・三毛猫、トラジマにサビ柄、和猫も洋猫もいっしょくたににゃあにゃあうにゃあと集まりまくっております。
「ええと。これは……？」
「あ、大丈夫ですよ珪先生。アルクといっしょなら大丈夫です」
　異世界冒険のベテラン、綾花の言葉に珪先生もナットクです。彼も近頃、寝子島ならではのヘンな出来事にも慣れてきた節がありまして。
「じゃあここは、猫だらけの世界。という感じかな」
「そうみたいです。素敵ですね……！」
　猫であふれる街並み。そこに暮らす人々は見たところ、綾花や珪とあまり変わらない人間たちです。
　そしてどうやら、猫たちを個人で飼うのではなく、全ての猫たちをみんなでお世話するというのがここの風習のようです。
「あれ。見たこともない文字だけど、なぜだか読めるね。不思議だなぁ」
「それもアルクの力なんです。ええと……愛の日？」
　街のいたるところに掲げられた、『愛の日』の文字。バレンタインデーのようなものでしょうか？
　その意味を、通りすがりのカップルさんが教えてくれました。ちなみにどちらも、にゃんこを腕に抱いております。
「ああ、愛の日？　そうだなあ。猫も人も、みんなで愛し合って幸せになれたらいいよね！　ってカンジ？」
「あたしたちや猫ちゃんたちみたいにね！　あなたたちも、愛でしょ？」
　言われて綾花と珪先生はふたり、ぽしゅんと頬を赤くしたもので、人のよさそうなカップルさんにも笑みがこぼれました。
（いつかこの人たちみたいに、珪さんと愛を誓えたら……）
　なんて思っていたら、アルクが自分を忘れるなとばかり、ほっぺたに肉球をぷにぷにぷに。
「今日はね、愛の日が制定されてから、ちょうど１１周年目のお祭りなんだ。君たちも楽しんでいくといいよ」
　確かに先ほどから、あちこちで賑やかな歌やら音楽が聞こえてきます。街にもいろとりどりの飾り付けがされて、おめでたい雰囲気が伝わってきます。
　１１年目だなんて、まるでどこかのみんなの居場所みたいですね！
「ちょっと、歩いてみようか」
「そうですね。行ってみましょう！」
　にゃお～ん！　アルクを抱き上げ、珪先生と並んで繁華街へ。
　愛の日は露店がたくさん出るようで、ふたりは猫印の入ったジュースと、大きなハート型の愛のクッキーを買いました。
　クッキーはふたりではんぶんこ。
「ミルク味ですね！　甘くて美味しいです」
「うん。別世界でも、クッキーの味は同じなんだね」
　本屋へ足を運べば、愛の本特集コーナーで読書好きなふたりは思わず読みふけってしまったり。公園に立ち寄れば鳥たちがちゅんちゅんぴいぴい、ららららら♪　と愛の歌を高らかに歌い上げていたり。そしてどこへ行っても目に付くし寄ってくるし、モテちゃって身動き取れないくらいの猫、猫、にゃんこたち！
「幸せです～」
　もみくちゃにされながら、綾花のお顔はにやけっぱなしでありました。

　ふにゃ？　と気の抜けた声を上げ、振り向いたアルク。その視線を追ってみますと、
「あ……結婚式ですね」
「なるほど。愛の日だものね」
　みっちりと集う猫たちに囲まれながら、純白の装いに身を包んだ新郎新婦が、とろけるような笑みを浮かべています。
「あっちでも。あそこでも、むこうでも。結婚式だらけ！」
　愛の日の名に違わず、そこかしこで人生の伴侶を定める人々の姿が見られました。誰もかれもが、幸せそうです。
　ふと、綾花の目の前にふわり、風に乗るように飛んできたのは……ブーケです！
「わ！」
「あはは、綾辻さん、ナイスキャッチ」
　青と白と桃色と。小さな花たちがきゅっと詰まった可憐なブーケは、綾花の手の中。
　途端に沸き上がる拍手と、にゃあにゃあにゃあと猫たちの大合唱。
　きゅ、と彼の手を取ったのは、無意識のままにでしょうか。
「綾辻さん？」
「これは……練習ですから」
　ぽわわと頬を染めて、上目づかい。
「いつか、こういう日が来るかもしれませんから……」
　にゃ～ん。
　声を大にして、綾花は言いたいのです。
「本を読んでる時。にゃんこたちに触れてる時……それに珪先生といっしょに過ごすこの時間が、私にとっての幸せなんです」
　照れくさそうに鼻の頭をかいた珪先生の横顔は、ほんのり朱色。
　ふたたび茜色が弾けるまで、にゃあにゃあにゃあと猫に囲まれ、もふもふな行進は続きました。

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