もしものメイドさん｜リアクション

もしものメイドさん

　メイド喫茶『ゆ～ホーム』の名物、『ゆ～タイム』が厳かに告げられた。
　待ち侘びた客達は一斉に呼び鈴を鳴らす。カウンターにいた者達はメイドの名をひたすら連呼した。
　指名されたメイド達は、にこやかな顔で赴く。各々が得意とする遊びで客達に奉仕した。
　葉月朱真はボードゲームを持ち込んだ。スーツ姿の男性は興味深げな目で聞いた。
「それは双六の類いなのか？」
「ご主人様、このボードゲームはたくさん稼いだ者が勝利を収める『運命の金時計』というものです」
　二つ折りのボードをテーブルに開く。金時計を模したルーレットをその横に置いた。
　男性は素朴な作りに目を細める。
「よく出来ている。これは葉月君の手作りのようだね」
「おっしゃる通りです。アケノイロ・パズルとは趣が異なりまして、技術が必要となります。今から、この金時計で五を出してみます」
　朱真はルーレットの長針を指で回す。一周したところで遅くなり、五の範囲で止まった。
「五が出ました」
　小さい人型の駒を五のマス目で止める。
「一千万円の宝くじが当たりました。このようにしてお金を稼いでいきます」
「早くにゴールしても意味はないのか」
「いえ、一位ボーナスとして二千万円が受け取れます」
「なるほど、高額のマス目を狙いながら一位ボーナスも視野に入れると。なかなか面白い趣向ではないか」
「恐れ入ります。これはご主人様限定のルールになりますが、勝利を収める度に希望したプレゼントを差し上げます」
　プレゼントの内容を書いた紙を恭しく差し出した。
　男性は全てに目を通したあとで、最後に書かれた『その他』を指さした。
「決してよこしまな気持ちではない。葉月君を抱き締めてもいいかい？」
「畏まりました、ご主人様」
　勝負は静かに始まった。

　カウンターには古苗木美姫の姿があった。三人の男性と会話を楽しむ。
「とにかく美姫ちゃんは笑顔がいいよね。一目見ただけで心が和むよ」
「私もその一人だ。孫とまでは言わないが、年配者の私の乾いた心を潤すような笑顔がとても素敵だ」
「二人の気持ち、よくわかります。ただ見ているだけで癒されるなんて、今日の出会いを本当に大切にしたいです」
　三人がそれぞれに美姫に好意を寄せる。
「三人のご主人様にそのように褒められたわたしが一番の果報者です。喋り疲れた時は遠慮なくおっしゃってください。喉に優しいロイヤルミルクティーをお持ち致します」
「素晴らしい配慮だ。その時は頼むとしよう」
「ありがとうございます。ここで小話ではないのですが、島内にあるコンビニエンスストアで起こった微笑ましい出来事を披露したいと思います」
「それは聞かないと」
「とても楽しみだ。続けてくれ」
「その笑顔がたまらない」
　三人は上体を傾けて話を聞く体勢に入った。
　美姫は笑顔を絶やさず、身振り手振りを入れて語って聞かせた。