もしものメイドさん｜リアクション

もしものメイドさん

　夜を迎えた。店内は大勢の客で賑わい、メイド達の笑顔に疲労が見え始める。
　古苗木美姫は五分の休憩を利用してバックヤードでアイスティーを飲んでいた。喉の調子を確かめるように、あー、と発声練習をした。
「少し、調子が悪いですね」
　やや遅れて休憩に入った葉月朱真が心配そうな顔になる。
「美姫、喉の調子はどうだ」
「少しヒリヒリしますが大丈夫です」
「あと少しで営業時間が終わる。踏ん張り時だ」
「わかりました。声のトーンを抑えてみます」
　ハイタッチよりも低い位置で二人は掌を合わせた。
　入れ代わるようにして月原想花が壁を支えにして入ってきた。隣には川上紗櫻都がいて、頑張れそう？　と小声で聞いた。
「膝がガクガクするんだよ」
「ハーフマラソンと思って乗り切ろうよ」
「競技のように棄権はできないのかな」
「まだそんな弱気になる状態じゃないって。ほら、スマイル、スマイル」
　紗櫻都はピースサインの形で口角を押し上げた。
「スライム、スライム……」
　想花は虚ろな表情で口にする。紗櫻都は笑顔で肩を貸して、大丈夫かな、と呟いて店内に戻っていった。

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