君と繋がる縁を紡いで｜リアクション

君と繋がる縁を紡いで

　慣れぬ布団が重いのか、意識だけぼんやり目覚めてしまったのか。
　上手く寝返りもできない状況に、柚春は瞼を開けて確認するか再び寝入ってしまおうか思案した。
（まだアラームも鳴ってないよね）
　そもそも、寝入った記憶が無い。隣り合わせになった布団を見て慌てふためいたあと、どうやって床に入ったのだろう。
　手を繋ごうと申し出たところまでは覚えがある。大げさに距離を取られたくなかったし、色々と込み上げる物があって涙を――それも結構な感じで流した、気がする。
（はずかしい！）
　何かから隠れるように身じろげば、さらに窮屈さが増す。さすがに不思議に思って瞼を開けようとしたとき、誰かの吐息が聞こえてきた。
　そりゃあ、同じ部屋で寝ているのだ。それくらい聞こえたって不思議じゃない。でも、ちょっぴり音源が近くはないだろうか。
（え、じゃあ）
　まさかと思って目を覚ますと、やっぱり目の前に端正なウォルターの顔があった。
　彼の右腕はしっかりと柚春の頭を抱え込み、左腕は腰を抱き寄せて。何だったら脚まで絡め合って、２人の間に隙間などなかった。これだけホールドされていれば、動けるはずもない。
　ここまでされるほど、昨夜の泣きっぷりは酷かったのだろうか？　それとも何かあったとか？
「…………っ！」
　何かとは、何だと言うのか。１人問答しては、彼を起こさないように静かに羞恥をかみ殺す。
　きっと彼だって落ち着けば離れるつもりだっただろうに、疲れていたためそのまま寝てしまったのだろう。そうでなければ、こんな事態に陥っているわけがない。
　けれど、さすがの彼も目覚めてこの有様であれば動揺するのではないだろうか。
　でも、もう少しだけ。もうほんの少しでいいから、この温かさに包まれていたい。柚春は寝たふりを再開し、ウォルターを抱き返すようにしがみつく。
　愛おしい人の体温と心音が、内側から染み渡っていく幸せを感じて、また微睡みに落ちていく。

　けれど、柚春は知らない。
　彼が必死に寝起きのなんたるかや、いつぞやのように諸症状と戦っていたことなど……知ることは、ない。

　繰り返しのように目を覚ましたところで、繰り返しのように１日が終わっていくだけ。
　名医がいると聞いては足を運び、長く入院するなら環境の良い場所でと国内を転々としてみたって、どうにもならないことはある。
　それを知っているから、少年は日々を自由に過ごした。
　少々のお小言が増えたって、薬が増えたって、欲しいものは欲しいと言わなければ伝わらない。
　……言ったところで、手に入れることも束縛することも叶わないのだけれど。例え『ごっこ』に思われたとしたって、ひとときの幸せは確かにあった。だから、余命宣告されている少年にとっては、十分だった。
　朝食が運ばれる少し前、いつものように朝の簡単な検査を受けようと身体を起こす。すると、いつもの看護師だけでなく、担当医まで朗らかな顔で入室してきた。

　毎日は変わる。変えようともがかなくたって、未来へ進む。
　誰にだってゴールは決まっているから、終わりへのカウントダウンにも見えるかもしれない。
　でも、毎日は変わっている。
　昨日とまったく同じ今日はないし、今日とまったく同じ明日にもならない――確かに僕らは、生きている。

このページにイラストを設定する