はこづめ。｜リアクション

はこづめ。

お互いに、はっとして目を開けた。
目線がすぐに合う。
稲積柚春はすぐにどきりとした。見慣れているはずのウォルター・Bの顔が近距離にあったのだ。
同じようにウォルターがすっと目線を横へ流した。頬がほんの少しだけ赤いような。
「先生、ここは？」
　学校で過ごしていたところ、気づいたらここにいた。体勢としては柚春がウォルターの太腿に座っているような感じ。狭くて身動きが取れない。どうやら立方体の箱の中にいるようだ。
「僕も気づいたらここにいたからねえ。見当もつかないよ」
　困ったように言うウォルター。
「それより、その体勢辛くない？」
「ええ、ちょっとだけ。……体を浮かせるから、ウォルター先生、足を抜いてもらえる？」
　先生と呼んでみて少し違和感を覚えた。学校で過ごしていたのでそのままの呼び方だが、すでにここは学校ではないのだし。
　そんなことを考えながら腰を浮かせる。
「ちょっと待ってねぇ」
　ウォルターはゆっくりと足を曲げる。その際、柚春の太腿に触れてしまった。
「ひゃっ」
　柚春はそう声をあげて、バランスを崩してしまった。
「わぶっ」
　焦ったようなウォルターの声、柚春はビクンと体を反応させた。
「う、ウォルターさん」
柚春の胸元に、彼の顔が埋まっていた。
「んん！？」
　体を起こそうとするが、熱い吐息がかかってまた体が反応してしまう。ウォルターはその声に驚いたのか、もぞもぞと体勢を変えようとする。
「う、動いちゃ、や……」
　敏感な場所に吐息がかかり、ぞくぞくと鳥肌が立つ。
　と、ウォルターが柚春の両肩を持って体を起こさせた。
「ごめんね、足が当たっちゃったね」
　穏やかな口調だが、息が荒く顔が紅潮している。危うく呼吸困難になるところだった。ちなみに柚春は別の理由で頬を赤らめていた。
「大丈夫。それより……少し頭をずらして。何か文字が」
「文字？」
　それは『脱出の方法』と書かれていた。
「本当に？」
　脱出という言葉を聞いたからか、ウォルターは反射的に身をよじる。
「ま、待って、ワット。そんな動いたら僕……」
　案の定、再びバランスを崩してしまう。しかし今回はウォルターの太腿辺りに手をついたのでどうにか体勢を戻すことができた。
「え？」
　何か固いものが。視線を動かそうとしたのだが。
「稲積！」
　ぎゅっと抱きしめられた。
「ワ、ワット？」
「いや、その脱出の条件が」
　あたふたとするウォルターはいつになく焦っているように見える。
「見間違いかもしれないけど、こうやって抱き締めるのが条件っぽいんだよねぇ」
「……でも、変化ないけど」
「み、見間違いだったかなぁ？」
　男性特有の生理現象を誤魔化すためだったとは言え、大胆過ぎた。ウォルターは心の中でそう思った。
　柚春はもう一度目を凝らし、脱出の方法を探る。
「！」
　目を見開く柚春。
「分かったかなぁ？」
「ほ、ほっぺにちゅーって。あの、ちゅーってもしかしなくても」
「ほっぺ、ね」
　ウォルターはすっと柚春の顎に手を添えた。
「へ？」
　じっと見つめられる柚春。
「ウォルターさん？」
　汗で透けてきた制服のブラウス、シャンプーの香り、早めに脱出しないとまずい。ウォルターは内心でそう判断した。
「動かないで」
　彼の真剣な声色に動きを止める。
「すぐ終わるよ」
　耳元で囁かれ、すぐに頬に柔らかい感触が。
　その瞬間、まばゆい光が箱の中に溢れる。
　そして、二人は寝子島のどこかに立ち尽くしていた。

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