君と繋がる縁を紡いで｜リアクション

君と繋がる縁を紡いで

　アラームに急かされ身支度を終えた２人は、今日こそ寝子島に帰るために空港へ向かおうとしたのだけれど。
　昨日の天気雨が嘘のように快晴だから、少しだけ寄り道をすることにした。
　旅館から車で15分ほどの距離にある八重垣神社は、空港で書いた記念絵馬が奉納される場所。
　そして、結婚式発祥の地とも呼ばれ、夫婦円満と良縁結びにご利益がある。
「へぇ……素盞嗚尊と稲田姫命がご祭神ねぇ」
「そう！　日本で初めて正式に夫婦になったって言われているんだよ」
　ここで願うのは、もちろんウォルターとのこと。
　昨日はめいいっぱい友達の良縁を願ったのだから、今日くらいはと柚春も気合いが入っている。
「どこから見よう、夫婦椿は葉っぱの形も可愛いんだって。それから池での占いに」
「時間だけは忘れないでよぉ？　もう一泊なんてことになったら……」
　はぁっと大きな息を吐くウォルターにとって、このアクシデントはどんな物だっただろう。
　２人で必死に宿泊施設へ電話したこと、恥ずかしい夜をすごしたこと、ドキドキした朝を迎えたこと。いっぱい、いろんなことがあったけれど。
「僕は楽しかったよ？」
　終わってしまえば、なんてことはない。せっかくの冬休みなんだから、もっと満喫したかった――なんて言えばお小言が降ってきそうで、柚春は続きの言葉を飲み込むと意味深に微笑んで見せた。
　何も知らない子供でもない。彼が理性を崩すわけがないと信頼を寄せているからでもない。
　そうなっても後悔はしなかっただろうけど、覚悟が出来ていたわけでもなかったから、きっとこれで良かったのだ。
「……ありがとう」
　一緒にお参りに来てくれたこと、大切にしてくれていること。
　伝えたい想いはたくさんある。これから長い時を一緒に過ごすたびに、それは増えていくのだろう。一言に集約できない気持ちは、全部伝えきれるだろうか。
「それは、ちゃんと君を送り届けられたら受け取るね」
「どういう意味？」
　この神社を一回りすれば、きっと早めに空港へ向かうのだろう。
　天気だって崩れる心配のなさそうな晴天だから、空港公園を散歩するのも良いだろうし、フライトシュミレーターで格好良く飛行機を操縦するウォルターを見るのも良さそうだし。
　昨日のようにトラブルに巻き込まれそうもなさそうなのに、彼は何の心配をしているのかと柚春は小首を傾げた。
「――八雲立つ、出雲八重垣妻込めに。八重垣造る、その八重垣を」
　それは、この神社の成り立ちを説明するのに重要となる和歌だ。
　素盞嗚尊は稲田姫を八岐大蛇から守るため、姫を隠すような八重垣を造った……確かそんな歌のはず。
「ワットが守ってくれるから、安心していいってこと？」
「ま、そんなとこかなぁ」

　縁があったから出逢えたのか、出逢えたから縁となったのか。
　結べそうなところまで来ている彼との縁は、今はすぐに解けてしまうかもしれない不安定な状態。
　それでもずっと、しっかり結ばれていますようにと願って手を繋ぐ。
「あ、あの池だよ！　占い用紙を浮かべてね、沈む場所と速さで縁の様子がわかるんだって」
　想いを結ぶのも手を繋ぐのも、１人ではできない。
　だからこれからも、２人一緒に――君と繋がる縁を紡いで。

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