六月三番目の日曜に｜リアクション

六月三番目の日曜に

◆present from present

ふと目に入ったネコジマスクエアののぼりに、雨寺凛は足を止めた。『父の日フェア』と、白抜きの文字で大きく書かれている。
「そっかー、もう父の日かぁ」
当然考えるのは、大好きな父親のこと。何か贈ることはできないだろうか。
勿論、父の日フェアに行けば何かしらプレゼントは買えるだろうけれど。せっかくなら、もっと別のものをと思う。
何か、彼女にしか贈ることのできないもの。
考えているうちに、ふと思い至ったのは背中のギターケース。
中のギターは、十二歳の誕生日に父親から貰ったもの。十五歳になった今でも、凛の大切な相棒だ。
「私が音楽好きになったのも、パパの影響だったんだよねぇ」
思えば父親の部屋で想像上のギターをかき鳴らしたあの日から、こうなるのは決まっていたのかもしれない。
そのきっかけをくれた父に、今の自分の演奏を聞いてもらいたい。
寝子島に来てから演奏を披露する機会だって何度かあったし、前よりも上達していると思うから。
その時、一つの閃きが凛の頭を走った。
ポンと手を打ち、
「そうだ！　演奏シーンを動画に撮ってパパにメールで送ろうっと！」
今は父親のもとへは行けないけれど、このやり方ならそれも関係ない。
善は急げだ。早速撮りに行こう！

寮に戻った凛は、動画撮影の準備を進めていた。
衣装は特に着飾ったりせず、寝子島高校の制服。高校生になった姿を、父親に見てもらいたいから。
「パパ、どう思うかなぁ♪」
手櫛で髪を整えて、鏡で確認。うん、変なところはどこにもない。
携帯の動画撮影モードを起動して、何度か試してわかったベストな立ち位置へ。
ギターを構えて、さあ準備は万端だ。
演奏する曲は決まっている。
小学生の頃、父親の部屋の大きなスピーカーで一緒に聞いた思い出の曲。
父親の青春時代に流行ったという、ザ・フライング・ストーンズの『ジャンピン・フラッシュ・バック』。
深呼吸して、リラックス。
力を入れず、右手で楽にピックを持つ。
「いくよ、パパ」
つま先で出だしのリズムをとって、演奏開始。
軽やかな音が、ギターから流れ出す。
あの日聞いた音そのままではないだろうけれど、それは今の凛にとっての最高の音色。
大好きな父親へ、感謝と愛情を込めて。
そんな風にして演奏しているからだろうか、口元には自然と笑みが浮かんでいた。
ミスすることもなく演奏を終え、撮影を止める。
頭から流して、ちゃんと撮れているかをチェック。
メールに添付して、本分を打ち込む。
『大好きなパパへ。

いつもお仕事お疲れ様！今日は父の日ということでプレゼントに私がパパの大好きな曲を演奏しました！
一緒に聞いた思い出の曲、頑張って演奏したよ！
今はそっちに行けないからこんな形だけど、もっと上達してからパパの目の前で演奏してあげるからその日を楽しみにしててね！　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　凛』
これでよし。
動画を添付しているからだろう、少し時間はかかったけどちゃんと送信することはできた。
窓越しに空を仰ぎ見て、父親の姿を思い浮かべる。
「パパ、喜んでくれるといいなぁ」
思いの詰まった演奏動画、きっと喜んでくれるだろう。

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