【クリスマス☆red】哀歓の激情｜リアクション

【クリスマス☆red】哀歓の激情

　気にする人は気にするし、気にしない人はトコトン気にしないこと。
　けれども、特別意識する人ができると、突如はたと思い返して気になってしまうことがある。

　――クリスマスって、いつお祝いする物なんだろう。

　24日と25日の一体何が。
　イヴとそうでない日で何が違うというのか。日本で明確に気にかけている人は、少ないと思う。
　仮に知っていたところで、ただのうんちくになりかねないくらい、この２日間は時間を問わず盛り上がる。
　なんなら、『土日が重なったなら、そこに合わせればいいじゃない』なんて、イヴイヴだと言ったり１日遅れでも良しとするケースもあるのだとか。
　学生は終業式が終わっていた方が気兼ねなく集まりやすいし、社会人ともなれば年末に向けて何かと追われている時期だ。本人達が楽しめるのならば、そういった調整も悪くないとは思う。

　それはまあ、それとして。
　今年、1371年のクリスマスは、24日が金曜日で25日が土曜日。パーティをするなら24日の夕方頃から盛り上がるだろうことは、誰にだって予想が出来た。
　カレンダーを眺める倉前七瀬も、漠然とクリスマスと言えば夜かなぁと思っていたし、これならどちらを選んでも次の日は休みだろうから、大丈夫かなとプレゼントの準備をしたのだけれど。
　バターを常温に戻している間に、大事なことを思い出してむむんと考え込む。
（クリスマスの予定が空いているか、聞いとらんかったです……）
　サプライズをしかけようと思っていたわけでもないし、聞こうと思えば聞くタイミングだってあったはず。
　けれど、クリスマスだ。賑わう街に繰り出すのも、聖なる祈りを捧げるのも、特別に大切な人と過ごすのだろうと思うと、躊躇ってしまった。

　朗らかな顔で、ウォルター・Bはなんと言うだろう。
　――クリスマスだよ？　家族と過ごすために実家へ帰って、ミサに行く予定さ。
　寝子島暮らしが長くても、ウォルターはイギリス人だ。クリスマスへの思い入れが強く、そんなことを言い出してもおかしくはない。
　それならば、少し残念に思いながらも送り出しただろうし、お土産話を楽しみに過ごしていたことだろう。

　……聞けないのは、断られるかもしれないという不安じゃない。
　――クリスマスなんて、恋人と過ごすに決まってるでしょお？
　おっとりとした優しい口調のようでいて、物言いのハッキリしているウォルターは『先約』だなんて濁さず告げるのかもしれない。
　そういった幸せを掴んで欲しくないわけでもないし、幸せにするなら自分だと自惚れているわけでもない。なのにどうしても、彼に恋人が出来るのは嫌だと思ってしまう。
（うん……それでも、届けるだけなら）
　スマートフォンを手に取って、メッセージを送る。
　いつかのように誘われるのを待つにしたって、もう夕暮れだ。自分から声をかけなければ、断られもしないが約束だってできはしない。
「……ふっふっふ。やれば出来る男だって見せてやりますよ」
　すぐには返事がないかもしれない。それでも、七瀬にはやることがたくさんある。
　粉を振るってバターを練って、卵白だってしっかり泡立てて、ラッピングだって片付けだって待っている。
　だから、架空のウォルターに怯んで怖じ気づいてる時間はないのだ。
　エプロンのリボンをキュッと結ぶ七瀬に、迷いは無かった。

　仕事を終えた森篠琳子は、いの一番に妹へ電話をかけた。
　いつもなら飲み会などの付き合いも程々に真っ直ぐ帰るけど、今日ばかりは優先させてほしいことがある。
　きちんと家族には帰りが遅くなることを事前に伝えてはいたし、母も休みだ。こうして心配する必要はないはずなのに、どうにも落ち着かない。
「お土産も買って帰るから、あんまりはしゃぎすぎないでね。それから……」
　学生時代からバイトに家事にと頑張って、面倒を見てくれていた姉のことを妹だって理解している。それどころか、「今年のクリスマスは……」なんて切り出したときには、冷やかすようにして喜んでくれたものだ。
　だからか妹は、姉の居ないクリスマスを寂しがるどころか、鞄をよく見て早くデートに行くように言って電話を切ってしまった。
（鞄？）
　何のことだと中を改めると、そこには――手のひらに収まるほどの小さなプレゼントボックスがあった。

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