【クリスマス☆red】哀歓の激情｜リアクション

【クリスマス☆red】哀歓の激情

　大人未満、恋人未満。
　まだまだウォルター・Bの隣に並ぶには、足りない物が沢山ある。
　だけど彼は、そんな未熟な稲積柚春を「出直しておいて」なんてあしらわない。ひとつひとつオーナメントを拾い集めるように、一歩一歩成長するのを――すぐ傍で待っていてくれるような気さえした。
「そういえば、イギリスではクリスマスって家族と過ごす物なんだってね？」
「うーん、まあそういう人が多かったかな。だからこそ、恋人を家族に紹介する日でもあったりね」
　別に恋人と過ごさないわけでもないと言うウォルターは、含みのある視線を送った。
　ぶわりと顔を赤らめた柚春をケラケラ笑って、茶化す彼は前々から変わらない。変わったことがひとつあるとすれば、近づいてもするりとかわしてしまうことが多かったのに、今夜はしっかりと手を繋いでくれている。
　暗がりだからかもしれない。今後も指まで絡めてくれるかは、彼の気分次第だろうけど。
「じゃあ、何か特有の言い伝えとかある？」
「好きだねぇ。そうだな、色々あるけどクリスマスだし……」
　場所によっては改変されて伝わっていることもあるだろうし、どれがイギリス特有かまではウォルターも詳しくは無い。きっと、この手の話はブラックウッド邸へ務めるメイドの方が良く知っているに違いない。
　何か幸せそうな小話で、今実践できそうなもの。手頃な物で思い出せないかと考え歩くウォルターは、花咲の祠に辿り着いてポツリと何かを言いかけた。
「どうしたの？」
「いや……うん。ちょっと珍しい物があるなぁって」
　ウォルターの視線を追うようにしてみたけれど、これと言って柚春が閃く物は見つからなかった。
　ただ、凛とした花々が並ぶ中で、小さな白い実をつけた植物に目を惹かれる。
「こういうの、クリスマスだと赤い実なイメージだけど、白いのも可愛いね」
「それ、イギリスでは玄関に飾るんだよ。日本では黄色い実が主流らしいけど……幸運を運ぶんだって」
　どこか濁したように言うので、柚春はじぃっとウォルターを覗き見た。
　二人にとって悪い意味ではなさそうだけれど、言えないような逸話が隠れているのだろうか？
「ワット、だいすき！」
　突如天真爛漫に微笑んだ柚春が、胸に飛び込んできた。
　掠めるようにウォルターの頬にキスをして、ふふふと幸せそうに抱きついている。
「……知ってた？」
「何を？」
　きょとんとしている柚春は、本当に知らないのだろう。
　やられっぱなしでは気が済まないウォルターは、柚春の頬に触れ思案するように撫でる。
「今、何の下にいると思ってる？」

　イギリスでは宿り木の下に立つ女の子はキスを拒めないと言われている。
　そして、宿り木の下でキスをした二人は結婚を確実にしてくれる、とも。
　顔を寄せれば、柚春の頬は期待が入り交じって紅潮していく。ゆっくりと近づいて、鼻先が触れ今にも――。
「はい、時間切れ。来年までの宿題ねぇ」
　パッと離れるウォルターは、柚春の手を引いてツリーへと向かう。
　今日はオーナメントを飾ればもう終わり。だけどこれからの時間は、もっと特別になるかもしれない。

　待ち合わせが遅かったからと、深夜まで振り回すわけにもいかない。
　洞窟を一頻り楽しむと、八神修はタクシーの捕まえられる大通りまで七夜あおいを送っていった。
　本当は寮まで付き添いたいところだけれど、こんな日だ。下手に自家用車で送り届けでもしたら、彼女の醜聞になる可能性もゼロではない。
　アプリで手配も済ませて、他愛ない話をする。空は少し曇ってきていて月の位置がわからないけれど……そろそろ、日付が変わった頃だろうか。
「メリークリスマス」
　そういって伸ばした拳の中から、深い蒼のお守りをあおいの目の前にぶら下げた。
　そのデザインは、彼女から貰った手作りの合格祈願のお守りと対になるように、猫の刺繍が施されていた。
「これ……」
　まるで守り石でも入っているかのようにコロコロしている。けれど、受け取ったあおいには触っただけでは中身の予想まではつかない。
「挫けそうになった時、開いてほしい。きっと元気をくれるから」
　二人で沢山撮った写真を、縮小プリントして詰め込んだ。あまりに数が膨大で、これは別でアルバムにしようかと仕分けたりして……刺繍よりも、中身の選別に時間がかかってしまった。
「元気が欲しい時かぁ。なら、寝子島にいる間は見られないね」
　残念と苦笑していると、タクシーが来た。桜花寮までと伝え、最後に何かないかと見つめ合って。
「あおいが寝子島にいなくたって、駆けつける準備はしておくよ」
「うん……頼りにしてるね。今日はありがとう」
　走り出すタクシーを見送って、さて自分はどうしようかと暫し歩く。
　先に帰ってしまうことにならないよう手配しておかなかったが、今夜は道も混んでいるだろうか。
　でもこうして、少し幸せの余韻を噛みしめるのなら、歩いて帰るのも悪くは無いと思った。

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あとがき

担当マスター：浅野悠希
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みなさまご参加ありがとうございます、浅野です。

たいっへんお待たせ致しました!!
気付けば寝子島は年明けで、クリスマスの結果でアクション悩んでいた方には申し訳ございません。

ドキドキと波乱のあった（？）かもしれない【クリスマス☆red】編、お楽しみ頂けたでしょうか。
今回はページ毎ではなく、時系列順に分散しておりますので、ぜひ隅々までチェックしてみてくださいね。

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