【クリスマス☆red】哀歓の激情｜リアクション

【クリスマス☆red】哀歓の激情

　クリスマスといえば、煌びやで賑やかなもの。対して、洞窟と言えば薄暗く物静かなイメージがある。
　どう考えたってイコールにならないけれど、恋人に誘われたのであれば橘千歳に否はない。
（まあ、危ないところなら事前に教えてくれるわよね）
　少々危険を顧みず行動してしまう御剣刀が誘ってくれたと言うのなら、クリスマスの雰囲気も関係なく好奇心に従って提案したのだろうと溜息が漏れるところだが、今回のデート先を提案したのは小山内海だ。
　何かびっくりさせる仕掛けがあるに違いないとは思うけれど、特に事前連絡がないということは、恐らく洞窟をイメージした会場で催し物がある程度のはず。
　そう思っていた千歳は、目的地に辿り着いてから驚きっぱなしだ。
　一度目は、本当に目的地が島の裏手にある洞窟だったとき。
　そうして二度目は、その洞窟が中まで煌々と明るく岩肌にイルミネーションを飾り付けているのを確認したときだ。
　変に近代的な建物も無く、ドイツ式の屋台のヒュッテや、タープなどで区切りを設けて様々な品物が並んでいるのは、ちょっとしたテーマパークか海外旅行にでも来たかのように非日常感が溢れているのに。
「二人とも……」
　こんなに目を奪われるイルミネーションがありながら、という驚きと。それが海と刀らしいかと思う微笑ましさを滲ませた苦笑。
　二人の手には、既に甘い香りを漂わせた食べ物が握られていたのだ。
『かわいいよ』
　見てみてと嬉しそうに海が見せるのは、小さなカップケーキの詰め合わせ。雪の結晶が散りばめられた袋の中に、アイシングでカラフルな物や一目でドライフルーツがぎっしり入っていることがわかる物まで多種多様だ。
　ラッピングの閉じ口には、針金入りのリボンに柊の葉がついたベルのイラストカードが添えてあって、これだけでちょっとしたプレゼントとしても成立しそうな可愛らしさ。
「確かに、これじゃあつい手を伸ばしたくなるわね」
　ひとつあたりが小さいので、クリスマスマーケットを楽しみながらでも気兼ねなく食べやすい。何より、海が目を輝かせているから、余計に良い買い物をしたのだと思ってしまう。
『みんなでわけよう！』
　フードのエリアが密集する場所に少しだけ設けられたスタンディングテーブルの近くに寄って、海は口を開けてと言わんばかりに笑顔でカップケーキを差し出した。
　そのまま、ごく自然なことのように刀が一口。続いて千歳も一口頬張って、海は二人の感想を求めるようにニコニコと見上げている。何故か、その視線に加わるように刀も千歳をじっと見ていた。
「なによ二人して……ついてる？」
　そんなに大口は開けていないつもりだったけど、一体なんだっていうのか。口周りを拭きながら問う千歳に、刀は意味深な笑みを向けて、海とアイコンタクトをとった。
『ちとせがかわいいねって』
　クールに見えるし恥ずかしがり屋な部分もあって、人の目があるところでは尚のこと二人のストッパーであろうとする部分もあった千歳が、何の抵抗もなく「あーん」と口を開けてくれた。
　海とは同性ではあるが恋人なわけで、これくらいなら照れなくなったかと思うと物寂しさもあるけれど、そういうちょっとしたことに『仲が深まったな』としみじみ感じては頬が緩む。
「……っ!?　わ、私も何か買ってくる！」

「おい、あんまり遠くまでいくなよ？」
「そんな心配をするくらいなら、刀くんはそのりんご飴の分け方を考えていなさいよねっ！」
　目当ての店が決まっているのかといわんばかりにスタスタと歩いてしまう千歳を見送って、刀はううんと困ったように笑う。
「からかいすぎたかな」
　そして、このりんご飴をどうしようか。
　スプーンやナイフがあれば食べやすくはできるけれど、外で食べようと思うとこのまま齧り付くほかないだろうかと悩んでいるふりをするも、くすくすと零れる笑いは止まらない。
　一人で行ってしまって大丈夫かと心配していた海も、ようやく千歳が何らかの列に並んだ様子を刀から伝え聞くと、自分の背丈では見えない人垣の向こうに目をやって、刀の袖を引く。
『ちとせからも、あーんってしてもらえるかな』
「してもらえるといいよなぁ」
　これと決めたら譲らない強さも度胸もある千歳のことだから、すると決めたらしてくれるのだろうけど。そのためには、回りくどいお願いよりも、真正面から頼み込んだ方が成功するかもしれない。

　でも、それならば――。ふと思い至ったイベントがあって、二人は顔を見合わせる。
　言葉にはしないし、ちょっぴり照れくさい気もするけれども。『してもらえたらいいな』と思うのだった。

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