ボディタッチ日和オブウィンター｜リアクション

ボディタッチ日和オブウィンター

「うーむ。とっても既視感」
　むずむず？　うずうず？　するような、とにもかくにもじっとしていられないこの感覚。倉前七瀬には覚えがあった。神魂の影響かとすぐにも悟るが、慣れないものだ。
　前回もこのような現象に見舞われたが、その際にはウォルター・Bと遭遇した。衝動に突き動かされるまま、レモン色のさらりストレートヘアを思うさま撫でまわし、堪能したものだ。あのやわらかい撫で心地……絶品だった。いつまでも撫でていたかった。なでなでさわさわするのもいいし、ちょっと荒く指を差し入れてくしゃくしゃするのもいいし、なんなら髪にキスしてしまいたいくらいだ。ああ、ウォルターさんの髪。素晴らしきレモンイエロー、かぐわしき香り。ずっと触れていたい。かいでいたい……。
（……ではなくて）
　どうも油断すると、思考を持っていかれる。ウォルターの姿ばかりを思い描いてしまう、ああ美しき青い瞳。さらさらのレモン色。
（この気持ちを、僕は一体どうしたらよかでしょうか）
　今度もレモン色の君、ウォルターに出会えたなら言うことはないが、そうそう都合よくいくものか。この上は別の誰かに烈々たる衝動を受け止めてもらい、急場をしのぐべきかいやいやいや、ウォルター以外の誰かにそんなことを？　なでなでしたりさわさわしたり、はむっとしたりぐりぐりしたり？　考えられない。
　視線は惑う。ついつい探してしまう、あの金色の穂波を。七瀬の思いや湧き上がる情動をぶつけてなお笑って受け止めてくれる、彼の姿を探してしまうのだ。
「……あれぇ？　倉前じゃない」
　そしてこんな時、案外とお目当ての人物に巡り合ってしまうのも、神魂のお導きというものだろうか。
　七瀬は主人を見つけたシェットランドシープドッグのごとく尻尾をふりふり、駆け寄った。
「ウォルターさん！　会いたかった！」
「おおっと」
　思わず飛びつく直前、踏み止まる。まだいくばくか理性が残っていて助かった。適切な距離は大切だ。いくら神魂によるものとはいえ、押しつけがましいのはよろしくない。七瀬ももう一人の大人なのだ。
　よって、謙虚な姿勢でお願いしてみることにする。
「あのう。ウォルターさん」
「何だい？　そわそわしてるけど、体調でも悪いのかい」
「はい、今日は寒いですし……ちょっと、よかですか？　その。手をつないでも……」
　彼は一瞬、ぽかんとして呆けた。しかしそれも一瞬だ。微笑み、手のひらを差し出してくれた。
　七瀬の顔がどれほどに輝いたか、本人は気付くまい。はっしと掴んだ。
「イヤだったら、言ってくださいね？」
「イヤじゃないよぉ。水くさいねぇ倉前は」
　握り返してくれた。彼も七瀬の様子が尋常なものではないと悟っていたかもしれない。
　思う存分にぎにぎして、なでなですりすりして、青い瞳を細めて七瀬を眺めながらに、あの金色にまで触れさせてくれた。

「落ち着いたかい？」
「はい。おかげさまで」
　しばしのなでなでにぎにぎを経て、七瀬の浮ついた心もようやく地に降りた。ウォルターはほうと長い息をつき、逆に七瀬の頭を撫でつけた。何だかあやされているような感じはいささか癪だが、悪い気はしない。
　やっぱり、彼は特別なのだ。七瀬にとって代えがたい存在なのだ。
「さて、僕はこれからお昼でも食べようかなと思ってたんだけどねぇ。どうする？」
「どうするって……一緒に行ってもよかですか！？」
「うん？　もちろんだよぉ。だから、何食べたい？　って聞いてるのさぁ」
　ああ。なでなでしてにぎにぎして、イエローのさらさら感を満喫して、さらにはランチも一緒できるとは。
「……今日はいい日です」
「体調悪かったのに？」
「おかげさまで、絶好調になりました！」
「ははは、倉前は面白いねぇ」
　彼が目の前で笑ってくれる。なんて素敵な一日だろう。