はこづめ。｜リアクション

はこづめ。

　青山絢ははっとして目を開けた。布団の感触も、人肌で温まったぬるま湯のような温かさは消え、体がある程度固定され窮屈な感覚があった。
「え……」
　少しだけ体をよじってみると、閉じ込められているのはどうやら箱の中らしい。そしてもう一つ気になることが。すうすうと寝息を立てている……恐らく自分の他に女性がいる。どうやら二人で閉じ込められてしまっているようだ。
（でもこの香りって）
　香水ではない、シャンプーか制汗剤のほんのりとした香り。仲の良い、従姉妹の顔がちらつく。
　と、いつの間にか寝息が聞こえなくなっていた。
「もしかして、絢ちゃん？」
　聞き覚えがある声にはっとする。
「真優理さん？」
　どうやら従姉妹同士で箱詰めされているらしい。それでも絢はほっとした、と同時に急に恥ずかしくなった。何しろ、彼女の香りで分かってしまったから。
（あの夜のおかげで）
　きっとお互いの心と体が繋がっている。それはそれとして若干変態チックだったかもしれない。
　絢の体が熱を帯びて来たことに気づき、水谷真優理はくすっと笑った。
「もしかして恥ずかしい？」
「いきなりこんな密着してたら、まあ、ちょっとは」
　誤魔化しつつ目の前にある真優理から視線をそらす、向かい合う形で足を絡めて座っている状態だがお互いの熱は感じられる。
「ちょん」
「ひゃっ」
「あ、ごめんね、つい」
　真優理がくすくすと笑いながら言う。脇を指で突かれた絢の体はさらに熱を帯びたような。
「うう。不意打ち」
　何もこんな時にイタズラしなくても、と。とはいえ、嫌ではないのだから、厄介だ。
「！　真優理さん、これ」
　横の壁に脱出の方法なるメモが書かれていた。
　二人で確認し、顔を見合わせる。
「長めのちゅーを」
「しろ？」
「何、この条件」
「長めって曖昧ね。ディープキスを十分以上ってことかしら？」
「そ、そんなわけ」
　十分もそんな状態が続くとしたら正気でいられる自信がない。こんなところで激しくなったら大変だ。
「理性が飛んだらマズイわよね」
　どうやら真優理もおなじことを考えているようだ。
　絢が戸惑っていると、真優理が体を捻り始めた。
「このままじゃ出来ないから、少し動きましょ」
「う、うん。じゃあ、あっ……」
　曲げた真優理の膝が胸の一番敏感なところをきゅっと押し込んだ。
「んん、あ」
「ふふ可愛い」
「も、もしかして、わざと？」
　緊張と真優理の攻めに肩で息をしながら頬を膨らませる。
「どうかしら？」
　そうこうしているうちにどうにかお互いの顔が目の前に。
真優理が手を伸ばして絢の顎に触れた。
「！　真優理さん？」
「脱出の条件とは言え、初めてではないし」
　絢は恥ずかしそうにこくりと頷いた。
「二人で、出ましょう」
　唇が絢のそれに触れる、前に止まった。
　無意識に瞼を閉じた絢が不思議そうに目を開ける。
「真優理さん？」
「ねえ、絢ちゃん、ここであの日のお互いの気持ちを確かめない？」
「それって」
「エッチ、しても良いんだよ？」
「いや、こんなところで、さすがに無」
　真優理が絢の口を塞いだ。
「んん」
「ん……」
　少しだけ長く、そうしていた。恥ずかしい姿だが、今は誰も見ていないのだから。

　気付けば二人はお互い別の部屋で布団に中にいた。唇に残っている感触は、嘘ではないだろう。