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スクール・コミュニケーション
この実に充実したカフェテリアのメニューたちは、寝子島高校の生徒にとって幸運なところの一つだ。日替わり定食は安くてボリュームたっぷり。寝子島丼にサンマ丼はいつでも島の新鮮な魚介がいただけるし、肉々しいスタミナ丼は成長期の最たる学生の心強い味方である。もちろんそばにうどん、ラーメン、カレーと定番どころはひととおり揃うし、時おりチャレンジングな新メニューが追加されたりもする。栄養士さんたちも気さくかつ前向きなやる気で仕事に臨み、学生はいつだってメニューに飽きることはなかった。
「はいよ、日替わりＢお待ちどうさま！ ごゆっくりね」
「ありがとう。いただきます」
梓 智依子も、感謝の念が絶えない。半ば諦めかけていた学生生活が、こんなにも色鮮やかな体験として心に刻まれてゆくのには、学食のメニューや明るい雰囲気作りも無関係ではあるまい。
それに学食という空間は、単純に食事処という以上に大きな意味合いを持つ。
「智依子さん、こっちこっち！」
「席空いてるよー」
「ありがとう。ご一緒させてもらうわね」
「いらっしゃ～い、智依子さん！」
かしましい娘たちはクラスメートだ。いずれも３つは年下だから、同級というよりは妹のような感覚に近く、彼女たちもまた智依子を姉代わりと慕ってくれている。
「あっ、日替わりＢの白身魚のフライ、おいしそ～。あたしもそっちにしとけば良かったかなあ」
「みんなは何を食べてるの？」
「私はうどん～。出汁が効いてて美味しいのよね」
「あたしカツカレー！ 午後から体育、部活と続くから、体力つけないと！」
「バイト代入ったから、今日は豪勢に寝子まんま丼にしちゃった」
メニューが豊富だから、それぞれに頼んだものも十人十色、比べてみるだけで会話は尽きない。
もっともこの時期、ことに話題へ上るのは来月の学期末テストだ。こんな時はおおむね愚痴のこぼし合いとなる。
「もー、誰がテストなんてもの考えたんだか」
「最初にテストって言葉を考えたヤツ、ブン殴ってやりたいね」
「あはは、過激～！」
「てゆーか冗談じゃなくてさあ、あたしほんとにヤバイんだよ～！ 補修はイヤ～！ いっそ、カンニングでもしちゃおうかな……」
「こら、ダメよズルは。分からないところは私が教えてあげるから」
「マジ！？ さっすが智依子さん、頼れる～！」
「わたしも分かんないとこあってさ～。智依子さん、教えて♪」
学生として過ごすことで紡がれた、かけがえのない繋がりを日々、智依子は実感する。
そうして距離の近い友人たちであるから、時に遠慮のない話題を振られることもある。いわゆるコイバナ。悪意ではなく、あくまで年ごろなりの好奇心だ。
「……私の？」
「うん、今のあたしらより若い時に、楓ちゃんを生んじゃおうなんて、ちょっと考えられないっていうか」
「どういうきっかけだったのかな～って……あっもちろん、言いたくなきゃ言わなくていいよ！」
と彼女らなりの配慮は見える。智依子にはそれがありがたく、躊躇いもあるにしろ、大切な友人たちにあえて隠すこともないのではとも思えた。
これは智依子なりの、コイバナなのだ。
「十三歳の頃……ダンサーになりたかったの。そのためのコーチがいたんだけど、私は彼に恋をして……」
「ふんふん……！」
「それで、それで！？」
語るうち、智依子は遡る。己の過去を。
両親はそれを過ちと呼び、決めつけ忌避したが、智依子自身はそうは思わない。少なくとも今は思えなくなった。なぜなら智依子の恋は、何より大切な愛娘との出会いへと導いてくれたから。
語る。語る。智依子は語った。するりするり、不思議と言葉が途切れることは無かった。
「ふてぇヤローだね、そのコーチってば。智依子さんを捨てるなんて！」
「ほんとほんと、別れて正解！」
「ねえ……智依子さんさ」
クラスメートのひとりが、遠慮がちに尋ねた。
「智依子さんは、後悔してたりする？ うんと年上の人を好きになってさ。恋に盲目になって……」
あるいは目の前の彼女も、道ならぬ恋に落ちたのだろうか。瞳は虚空と智依子を行ったり来たり。迷っているのかもしれない。
智依子は力強くもうなずいた。その答えに、迷いは無かった。
「後悔なんてないわ。だって、楓と出会えたもの」
救われたのか、友は初々しく目を輝かせ、智依子へ礼を述べた。
食堂に催された突発的な勉強会も、チャイムの音とともに終わりを告げた。
「おかげで助かったよー、智依子さん！」
「ふふ。お役に立てて何よりよ」
「よーし、午後の授業もがんばっていこー！」
おーっ！ と号令に、智依子も拳を立てて同調する。
友がみな、輝く道を歩めますよう。自らがその導きの一端とならんことを。智依子は願い、彼女らをまぶしく見つめた。
「はいよ、日替わりＢお待ちどうさま！ ごゆっくりね」
「ありがとう。いただきます」
梓 智依子も、感謝の念が絶えない。半ば諦めかけていた学生生活が、こんなにも色鮮やかな体験として心に刻まれてゆくのには、学食のメニューや明るい雰囲気作りも無関係ではあるまい。
それに学食という空間は、単純に食事処という以上に大きな意味合いを持つ。
「智依子さん、こっちこっち！」
「席空いてるよー」
「ありがとう。ご一緒させてもらうわね」
「いらっしゃ～い、智依子さん！」
かしましい娘たちはクラスメートだ。いずれも３つは年下だから、同級というよりは妹のような感覚に近く、彼女たちもまた智依子を姉代わりと慕ってくれている。
「あっ、日替わりＢの白身魚のフライ、おいしそ～。あたしもそっちにしとけば良かったかなあ」
「みんなは何を食べてるの？」
「私はうどん～。出汁が効いてて美味しいのよね」
「あたしカツカレー！ 午後から体育、部活と続くから、体力つけないと！」
「バイト代入ったから、今日は豪勢に寝子まんま丼にしちゃった」
メニューが豊富だから、それぞれに頼んだものも十人十色、比べてみるだけで会話は尽きない。
もっともこの時期、ことに話題へ上るのは来月の学期末テストだ。こんな時はおおむね愚痴のこぼし合いとなる。
「もー、誰がテストなんてもの考えたんだか」
「最初にテストって言葉を考えたヤツ、ブン殴ってやりたいね」
「あはは、過激～！」
「てゆーか冗談じゃなくてさあ、あたしほんとにヤバイんだよ～！ 補修はイヤ～！ いっそ、カンニングでもしちゃおうかな……」
「こら、ダメよズルは。分からないところは私が教えてあげるから」
「マジ！？ さっすが智依子さん、頼れる～！」
「わたしも分かんないとこあってさ～。智依子さん、教えて♪」
学生として過ごすことで紡がれた、かけがえのない繋がりを日々、智依子は実感する。
そうして距離の近い友人たちであるから、時に遠慮のない話題を振られることもある。いわゆるコイバナ。悪意ではなく、あくまで年ごろなりの好奇心だ。
「……私の？」
「うん、今のあたしらより若い時に、楓ちゃんを生んじゃおうなんて、ちょっと考えられないっていうか」
「どういうきっかけだったのかな～って……あっもちろん、言いたくなきゃ言わなくていいよ！」
と彼女らなりの配慮は見える。智依子にはそれがありがたく、躊躇いもあるにしろ、大切な友人たちにあえて隠すこともないのではとも思えた。
これは智依子なりの、コイバナなのだ。
「十三歳の頃……ダンサーになりたかったの。そのためのコーチがいたんだけど、私は彼に恋をして……」
「ふんふん……！」
「それで、それで！？」
語るうち、智依子は遡る。己の過去を。
両親はそれを過ちと呼び、決めつけ忌避したが、智依子自身はそうは思わない。少なくとも今は思えなくなった。なぜなら智依子の恋は、何より大切な愛娘との出会いへと導いてくれたから。
語る。語る。智依子は語った。するりするり、不思議と言葉が途切れることは無かった。
「ふてぇヤローだね、そのコーチってば。智依子さんを捨てるなんて！」
「ほんとほんと、別れて正解！」
「ねえ……智依子さんさ」
クラスメートのひとりが、遠慮がちに尋ねた。
「智依子さんは、後悔してたりする？ うんと年上の人を好きになってさ。恋に盲目になって……」
あるいは目の前の彼女も、道ならぬ恋に落ちたのだろうか。瞳は虚空と智依子を行ったり来たり。迷っているのかもしれない。
智依子は力強くもうなずいた。その答えに、迷いは無かった。
「後悔なんてないわ。だって、楓と出会えたもの」
救われたのか、友は初々しく目を輝かせ、智依子へ礼を述べた。
食堂に催された突発的な勉強会も、チャイムの音とともに終わりを告げた。
「おかげで助かったよー、智依子さん！」
「ふふ。お役に立てて何よりよ」
「よーし、午後の授業もがんばっていこー！」
おーっ！ と号令に、智依子も拳を立てて同調する。
友がみな、輝く道を歩めますよう。自らがその導きの一端とならんことを。智依子は願い、彼女らをまぶしく見つめた。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2023年04月12日
- 参加申し込みの期限
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- 2023年04月19日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2023年04月19日 11時00分
