- 0
- 0
- 種族
-
- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
- AAA000000
スクール・コミュニケーション
生徒会書記、月原 想花の放課後は忙しい。会議中は活発に交わされる議論の全てを書き留めねばならないし、終わって後もそれらを議事録としてまとめ残さねばならない。それにマンモス校、寝子高の生徒会ともなれば雑事も多岐に渡るし物量も並ではない。作業に追われ、帰途に着くのは日が暮れてからなんてこともざら。なかなかこれが、大変な役職なのである。
そんな生徒会が、今日はお休み。久しぶりのフリーな放課後だ。
（……図書室でも行こうかな）
多忙が急になりを潜めると、どうにも気が抜けてしまう。高みを目指しずんずんと坂道を登っていたのが、落とし穴にはまったような感覚だ。
廊下を歩むと、窓の向こうに沈み始めた太陽がちらと覗く。近頃は秋も深まり、めっきり日が短くなった。かたかたと窓が鳴り、肌寒さを覚えて肩をさする。そろそろクローゼット奥のダッフルコートを復権させる頃合いだろうか。まだ少しばかり早いだろうか。
物思いにふけりながらも歩を進めていたら、図書室を通りすぎていた。
窓際の特等席に陣取り、基準もなく手に取った数冊をぱらりと開く。ひとつはゲーテの詩集だった。嫌いじゃないが、今日はなんだか気分じゃない。机のわきに置く。次に現れたのは見たことのない表紙、聞いたこともない作者とタイトルの、どうやら海外のファンタジー小説か。ささやかな興味を惹かれページを繰る。
絢爛豪華な宮殿を舞台に繰り広げられる、血臭すら鼻腔に飛び込んできそうな政争と闘争。かと思えばエメラルドのような森を颯爽と飛び越える赤き竜の勇姿、どこまでも広がる深淵めいた蒼海を切り裂き進む海賊船の奏でる勇ましき歌。麗しくも凛と猛々しい美丈夫の騎士長と、煌々ときらめく宝石に例えられる美姫との儚き悲恋。ああかくも艶やかに、芬々たる香気醸し出す幻想物語があったとは。想花は神秘の世界へ飛び込み身を沈め、どこまでも浸り、
「…………ああ。だめだ」
浸ることができなかった。
気が乗らない。いつものようにすらすらとセンテンスを追うことができない。どうしても集中力が途切れてしまう。
アンニュイでけだるげな、秋の夕暮れ。ページにかかる前髪さえうっとおしく思え、想花は本を閉じた。
（この本は借りて、後で読もう）
次の一冊は……と開こうとするも、手が動かない。代わりに邪魔な前髪をくりくりと弄り始めてしまう。
（髪……切りに行こうかな）
想花は渦に囚われていた。益体もない思考ばかりが巡り、思いもかけないイメージが浮かび上がっては消えてゆく。寝子島を舞う赤いドラゴン。宝石を纏い着飾った自分。向こうからやってくるのは、白と黒の髪をした彼女……。
ぶるぶるとかぶりを振って頭から追い出した。
渦は巡る。まぶたの奥に輝きながら、暗黒をはらみながら回転し、全てを飲みこんでゆく。
（いつ切ったっけ。夏休み前？ 後？ 覚えてない。前も後ろもモッサリしてきた気がする。いっそばっさり、やっちゃおうかな……）
いつのまにやら散発が主題に取って代わっている。
（それともむしろ、伸ばす？ ショートカットも少し飽きたし、ロングヘアに……でも似合わないよね、ぼくみたいな顔面偏差値平均値には。はあ～～～）
どこを取っても劣等感の塊で、その自己評価には本来の想花の魅力が加味されていないと言える。髪を整えメイクを整え、装いも整えれば引く手数多であろうに、彼女は気付いていないのだった。
（本格的に冬になる前に、切ろうか……）
窓の向こうに垣間見える樹々は、深く鮮やかに色づいている。寝子島にもやがて寒気が押し寄せるだろう。その前に切ろう。そうしよう。
とりとめなく考えながら、想花はいつしかまどろみへ落ちてゆく。
亜空を旅する想花は風雪のように飄々とした女盗賊と共に赤き竜に乗り、失われたいにしえの詩を求める旅を夢に見た。風を纏い呪文を叫び、痛快な冒険に漏れた楽しげな寝言を聞く者がなかったのは幸いだ。
窓の向こうに、秋の夕暮れ。差し込む斜陽の赤さが色を失うまで、想花の旅は続いた。
そんな生徒会が、今日はお休み。久しぶりのフリーな放課後だ。
（……図書室でも行こうかな）
多忙が急になりを潜めると、どうにも気が抜けてしまう。高みを目指しずんずんと坂道を登っていたのが、落とし穴にはまったような感覚だ。
廊下を歩むと、窓の向こうに沈み始めた太陽がちらと覗く。近頃は秋も深まり、めっきり日が短くなった。かたかたと窓が鳴り、肌寒さを覚えて肩をさする。そろそろクローゼット奥のダッフルコートを復権させる頃合いだろうか。まだ少しばかり早いだろうか。
物思いにふけりながらも歩を進めていたら、図書室を通りすぎていた。
窓際の特等席に陣取り、基準もなく手に取った数冊をぱらりと開く。ひとつはゲーテの詩集だった。嫌いじゃないが、今日はなんだか気分じゃない。机のわきに置く。次に現れたのは見たことのない表紙、聞いたこともない作者とタイトルの、どうやら海外のファンタジー小説か。ささやかな興味を惹かれページを繰る。
絢爛豪華な宮殿を舞台に繰り広げられる、血臭すら鼻腔に飛び込んできそうな政争と闘争。かと思えばエメラルドのような森を颯爽と飛び越える赤き竜の勇姿、どこまでも広がる深淵めいた蒼海を切り裂き進む海賊船の奏でる勇ましき歌。麗しくも凛と猛々しい美丈夫の騎士長と、煌々ときらめく宝石に例えられる美姫との儚き悲恋。ああかくも艶やかに、芬々たる香気醸し出す幻想物語があったとは。想花は神秘の世界へ飛び込み身を沈め、どこまでも浸り、
「…………ああ。だめだ」
浸ることができなかった。
気が乗らない。いつものようにすらすらとセンテンスを追うことができない。どうしても集中力が途切れてしまう。
アンニュイでけだるげな、秋の夕暮れ。ページにかかる前髪さえうっとおしく思え、想花は本を閉じた。
（この本は借りて、後で読もう）
次の一冊は……と開こうとするも、手が動かない。代わりに邪魔な前髪をくりくりと弄り始めてしまう。
（髪……切りに行こうかな）
想花は渦に囚われていた。益体もない思考ばかりが巡り、思いもかけないイメージが浮かび上がっては消えてゆく。寝子島を舞う赤いドラゴン。宝石を纏い着飾った自分。向こうからやってくるのは、白と黒の髪をした彼女……。
ぶるぶるとかぶりを振って頭から追い出した。
渦は巡る。まぶたの奥に輝きながら、暗黒をはらみながら回転し、全てを飲みこんでゆく。
（いつ切ったっけ。夏休み前？ 後？ 覚えてない。前も後ろもモッサリしてきた気がする。いっそばっさり、やっちゃおうかな……）
いつのまにやら散発が主題に取って代わっている。
（それともむしろ、伸ばす？ ショートカットも少し飽きたし、ロングヘアに……でも似合わないよね、ぼくみたいな顔面偏差値平均値には。はあ～～～）
どこを取っても劣等感の塊で、その自己評価には本来の想花の魅力が加味されていないと言える。髪を整えメイクを整え、装いも整えれば引く手数多であろうに、彼女は気付いていないのだった。
（本格的に冬になる前に、切ろうか……）
窓の向こうに垣間見える樹々は、深く鮮やかに色づいている。寝子島にもやがて寒気が押し寄せるだろう。その前に切ろう。そうしよう。
とりとめなく考えながら、想花はいつしかまどろみへ落ちてゆく。
亜空を旅する想花は風雪のように飄々とした女盗賊と共に赤き竜に乗り、失われたいにしえの詩を求める旅を夢に見た。風を纏い呪文を叫び、痛快な冒険に漏れた楽しげな寝言を聞く者がなかったのは幸いだ。
窓の向こうに、秋の夕暮れ。差し込む斜陽の赤さが色を失うまで、想花の旅は続いた。
あとがき
担当マスター：
網 透介
ファンレターはマスターページから！
網です。学校、授業以外を描くお話でした。
らっかみ！タイムも晩秋となり、食べものの話題が増えたのが印象的でした。
焼いも。食べたいですね。甘いやつ。昨年はあまり食べられなかったので、今年はたらふく食べたいです。
なんて話をしていると、リアルタイムは春なので思考がバグりますね。執筆中にもたまに混乱したりします。困ったものです。
それでは、また次回に。
網でした。
らっかみ！タイムも晩秋となり、食べものの話題が増えたのが印象的でした。
焼いも。食べたいですね。甘いやつ。昨年はあまり食べられなかったので、今年はたらふく食べたいです。
なんて話をしていると、リアルタイムは春なので思考がバグりますね。執筆中にもたまに混乱したりします。困ったものです。
それでは、また次回に。
網でした。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
-
- 2023年04月12日
- 参加申し込みの期限
-
- 2023年04月19日 11時00分
- アクション投稿の期限
-
- 2023年04月19日 11時00分
