GOOD BYE YESTERDAY｜リアクション

GOOD BYE YESTERDAY

　駅南のシーサイドタウン、雑居ビル内のネットカフェは案外空いていた。
　肌寒いとはいえ秋晴れの好天だ。アウトドアを満喫する人が多かったからだろうか。

　気楽にフリータイムパックを頼んで案内されて、英二はたちまち緊張することになる。
　部屋とはまたちがって、これはこれで、困るかも。
　ふたり連れ男女だったせいか、カップルルームなる小部屋に通されたのだ。赤い革張りのチェア、大画面のモニター、ちっちゃなテーブル。天井はオープンで具体的に言えば仕切りがあるだけだったが、間接照明はなんだかムーディだ。シートは狭くてどうしても、体は触れあわずにはおれない。自室でふたりきりというよりも、距離の近さを意識する。
　カラオケボックスなんかよりずっと密着状態だったのである。座ってみれば肘がぶつかるし、腰と腰との空間もごくわずかだ。
「ほえー、ドリンクフリーなんだ。こりゃあいいねぇ」
　ののこはのんきに盛り上がっている。リモコンをカチャカチャやって動画配信サービスを物色していた。
「見て見て英二くん、アニメチャンネルみたいなのもんのすごくたくさんあるよ！　映画の配信サービスもいっぱいだし、ここで暮らしたいくらいだよ～」
　暮らすって。
　同棲ってこと！？
　例によってののこのことなのでまさかそんな意味深長な言葉を口にしたわけでもないだろう。わかっていても英二の心は千々に乱れる。
「とりあえず二作目見ようよ、『ニャンダムII』！」
「あ、うん、いいよね『II』！　僕も三部作で一番好きかも」
　邪念はいけない集中しよう、あらためて英二は考える。
　青き巨星や三機編成のトリプルアタック、でなけりゃ水陸両用戦闘メカたちが、ピュアな気持ちを取り戻してくれるはずだ。
　実際、物語がはじまればたちまち、英二の心は宇宙戦争の時代へととりこまれていくのだった。
「うほー！　捕虜が吹っ飛んだー！」
　妙なポイントで大喜びするののこである。
　野々さんと過ごすのどかでほのぼのとした風景――。
　英二は確信を持って思う。
　なんでもなくても、得がたい時間だよ。