GOOD BYE YESTERDAY｜リアクション

GOOD BYE YESTERDAY

　勉強疲れを癒す、それは真白がお泊り会を提案した目的のひとつではあった。
　けれどもうひとつ、真白にはメインの目的がある。
　この前ハロウィン☆デイズのとき、紅ちゃん言ってた。　
　起きたらすごい疲れてるとか、パジャマじゃなくて普段着になってたりすることがあるって。
　それって、寝てると思ってる間に外に出歩いてるんじゃないのかな？
　かなり復調したとはいえ、紅美が不安定な精神状態におちいりやすいことを真白は知っている。実際目にしてきたのだ。
　自分を見失って幼児退行したり、記憶が途切れがちになったり。
　未遂に終わったけど、洗脳されたみたいになってアイスピックで他人を突き刺そうとしたり――。　
　こうして見るかぎり紅美の寝顔はおだやかだが、夢遊病のようなものにかかっているのであれば問題だ。
　だとしたら周りのことが把握できてるかも怪しいし、もし事故に巻き込まれたりしたらと思うとすごく怖くてすごく心配だよ。
　猫のように無音で布団から抜け出し、真白は忍び足で室内を調べた。電灯をつけるわけにはいかない。スマホが灯明がわりだ。
　しばらく調べてすぐに、やっぱり、と心のなかでうめくことになった。
　窓枠に足をかけた跡があったのだ。泥もついていた。何度かここから出入りしているのだろう。紅美の部屋は二階だが、屋根に移れば外に出ることはできると思う。
　夢遊病、なのかな。
　昔見た米国製のアニメで、猫のキャラクターが眠りながらふらふらとうろつきまわり、これをネズミのキャラクターがなんとか安全に自宅に戻そうとするシーンを思い浮かべた。猫は眠ったまま空中を歩いたり、列車に轢かれそうになるも間一髪でUターンしたりする。ああしたファニーなものであればいいのだが、現実はそうもいくまい。
　どうしよう。
　真白は親指の爪を噛む。
　本当は病院とかに連れて行ったほうがいいのかもしれないけど、紅ちゃんは嫌がるかもしれない。
　今日も、『現象』が起こってくれればいいんだけど。
「真白ぉ？」
　背後から突然声をかけられ、真白は飛び上がりそうになった。
　おそるおそる振り返る。紅美が起きていた。目をこすっている。
「なぁに？　おしっこ？」
「あ、ま、まあそんなとこ」
「トイレは部屋を出て廊下の突き当たりだよー」
　あくび混じりに告げたのち、紅美は「あれー？」とつぶやいたのである。
「なんでクローゼット？　おかしくね？」
　たしかに、おかしい。
　真白も思った。
　紅美はクローゼットに手をかけて、開きかけていたのだ。そこで真白に気がつき、自分の行動にも気がついたらしい。
「朝起きるとすっげー疲れててさ……パジャマじゃなく普段着だったりすんの」
　ハロウィンで語っていた紅美の言葉、それが真実だと真白は悟った。
　おそらく紅美は寸前まで深夜徘徊の動きに入っていたのだ。しかし真白の気配に気づき、解除されたにちがいない。
「まーいいや、おやすー」
　おぼつかない口調でそれだけ言うと、紅美はベッドに戻ってまもなく再び眠りに落ちた。
　どうしよう。
　本当に。
　結局、朝まで真白は眠ることができなかった。
　幸い紅美はその後まったく起き上がることがなく、朝も遅くなってから目覚め「やべーニチアサアニメ寝過ごしたー」と大きく伸びをしたのである。
「あはは、そうだね」
　真白も大きなあくびをもらした。