【寝子祭】届け銀河の涯てまで！　輝きをキミと｜リアクション

【寝子祭】届け銀河の涯てまで！　輝きをキミと

（もうすぐ出番か）
　桜井ラッセルは、ステージの袖で今までのことを思い出していた。
　演劇祭で思いがけずマクベス夫人に扮して、女装が似合うことを把握されてしまったのが事の始まりだ。
「裏ミス寝子高いけるって」
「また見たいなー」
「衣装はまかせて！」
　などと、周りにのせられ仕立て上げられてしまった。
「あああ、わかったよ！　最後の寝子祭だし、まあいいか、やってやる！」
　照れ屋で男のプライドに関わるので本来なら女装なんてやりたくない。
　だが演劇部だし、押しに弱いため頼まれると断れない。
　顔を曇らせたくないし、どこかで、変わり種も面白れぇ、と思っている自分がいた。
　美的センスの高さも仇になった。
「他の奴が生半可なものを見せるなら自分がやる！」
　と勢いで言ってしまったのだ。
（余計なこと言っちまったか）
　だが後には引けない。

　そして出番がやってきた。
　女装男子ということで笑うつもりでいた観衆は、一瞬目を疑った。
「かわいい！」

　三つ編みをといたゆるいウエーブの長い髪には青い銀河の髪飾り。
　大胆に肩を出した、プリンセスシルエットのキラキラ星くずドレス姿は息を飲むほどに美しい。
（声は粗が目立つからな）
　プリンセスはしゃべらずに微笑み、舞台でソロダンスを踊る。
　キラキラ星変奏曲のメロディーに乗せて、ラテン系ソロダンスの応用だ。
　歓声と口笛、拍手が巻き起こった。
　観客はすっかりラッセルに見惚れていたのだ。

　
　海道千里は、友人と一緒に寝子島に観光に来ていた。
　たまたま文化祭をやっていると知って、猫耳パーカーに星のバッジをつけて潜り込んだ。
「ここの女子レベルたけーな」
　という友人に笑顔で相槌を打ちながらコンテストを見ていたが。
「あれ……？」
　ステージに上った金髪のプリンセスの顔に、見覚えがあった。
（桜井じゃないか……？　懐かしいな）
　
（よし、なんとかなりそうだな）
　踊りながら少し落ち着いたラッセルはなんとなしに観客席に目を落とし。
　懐かしい旧友の姿に気づいてしまった。
（い！？　海道、こんなとこで会うなんて聞いてねぇ……）
　中学卒業のころから変わっていない明るい笑顔がこちらを向いている。
（……気づかないでくれよ。頼むからクラスの奴ら、声援とか送らないでくれよな）
　笑みを崩すまいとしながらラッセルは、星の海の中に会ってはならない王子を見つけてしまったプリンセスのように戸惑い心揺れていた。

「って、どうかしたか？」
　尋ねる友人に千里は答えた。
「いや、なんでもない」
（多分、桜井は気づかれたくないだろうな）
　だから目は合わせず、笑顔を向けるだけにした。
（後で声かけられたらいいんだが……）
　
　ステージではラッセルがマイクを向けられていた。　
「銀河へ届けたい、思いを教えてください」
　ラッセルは、作りすぎない裏声で答える。
「……今ここにいない縁や友達が、銀河を隔てて同じ星の下で笑えますように」
　拍手を浴びながら、そそくさとステージを去るラッセル。
「すげーよ！」
　クラスメイトたちの歓声が聞こえる。
　だが、一刻も早く着替えたい。
（海道……気づいたかな？）
　気づいてないと信じたいが。
（元気そうだったな……）
　それがわかったのは、よかったと思う。