【寝子祭】届け銀河の涯てまで！　輝きをキミと｜リアクション

【寝子祭】届け銀河の涯てまで！　輝きをキミと

　演劇部の出し物に出演する３年生青山絢は、舞台袖からそっと客席を覗いた。
　心なしか、普段より観客の数が増えているような気がする。
（やはり映画出演とＰＶ出演が効いたのかしらね？）
　普段はやや人見知りで、対人関係は受け身な絢だが、役者としては別だ。
　映画『寝子街闘者　晩夏の陣』、走るねこでんに乗る恋人を全力で追いかけるPVと、着実に経験は積んできた。
（観客が多くても、いつも通りに全力で演じるだけ）

　絢の１２歳上の従姉妹水谷真優理は、デジカメ持参でウキウキと客席にやってきた。
（今年の寝子祭は絢ちゃんにとって高校最後のものになる。今日はひたすら絢ちゃんを撮りまくるわ）
　もっとも、真優理がフォトジェニックな従妹を撮影しまくるのはいつものことだった。
　星ヶ丘の超高級ホテル「ステッラ・デッラ・コリーナ」でコンシェルジュとしてプロの仕事ぶりを見せる真優理だが、プライベートでは大好きな絢のことで頭がいっぱいだ。
「今日の演目は『寝子ヶ丘高校の魔人！』ね」
　物々しいタイトルだが、内容はスラップスティックコメディらしい。

　ブザーと共に場内が暗転。
　幕が開くと、絢が座っている。
　何やら読書をしているようだ。
「寝子ヶ丘高校　教室」
　ナレーションが入った。
（物静かな少女って感じね、素敵！）
　デジカメを最大限ズームして、真優理は舞台に見入っている。
　そこへ白衣に眼鏡の青年が入ってきた。
「君、またオカルトの本を読んでるのかい？」
　オーバーアクション気味に身振り手振りをする青年。
　それに対し、絢はローテンションで答える。
「……そうよ」
「くだらないな。オカルトなんて非科学的なもの、時間の無駄だよ」
「あなたは科学しか信じないのね。科学で解明できないことなんかいくらでもあるのに」
「今科学で解明できないとしても、それは実験や推論が足りないだけだ。時間をかけて正しい手順を踏みさえすれば、すべては科学で解決できるよ」
　絢はなんでもオカルト方面に解釈しちゃう危ない少女、ルカ役で一応ヒロイン。
　お相手役はオカルトなんて信じない科学部の部長。
　水と油のように意見があわない二人。

「キャーッ！！」
　舞台が暗転し、絹を裂くような悲鳴が上がった。
　二人がそちらへ向かうと、闇の中走り去る人物の後ろ姿が見えた。
「君、大丈夫か？」
　倒れる女生徒に駆け寄る二人。
　そしてルカはつぶやく。
「あれは……寝子ヶ丘高校に現れるという伝説の魔人？」
「何を馬鹿な！」

　この舞台は再演で、かつてルカ役はハイテンションのトンデモ少女として演じられたが、絢はそこを敢えてテンション抑え気味に演じることで「物静かな少女」という雰囲気を出していた。
　その雰囲気に馴染んできたところでそれまでの物静かさを放り投げて、一瞬だけハイテンションになる。
　客席はそのギャップに息を飲み、次の瞬間爆笑した。
　観客から大きな拍手が起こった。
（すごいわ、絢ちゃん、最高！）
　一番熱狂的なのは自分だが、従姉妹の欲目を差し引いてもみんな夢中だ、と真優理は手を叩きながら思う。
（絢ちゃんに贈る花束を持ってくるべきだったわ！）
　そんなことを思うほどだった。
　拍手喝采とともに無事幕は下りた。
　
　絢のコメディエンヌ（喜劇女優）ぶりをしっかりと堪能した真優理はつぶやく。
「絢ちゃん、シリアスな役だけじゃなくてこういう笑える役もしっかりこなせるとは……さすが女優だわ」
　もちろんデジカメにはしっかりと記録済みだ。
（後でお気に入りの一枚をスマホの待ち受けにしようっと）
　舞台が終わった後も楽しみは続くのである。　