携帯戦記カプセルギア　第七話「昨日までの友は、今日の……」｜リアクション

携帯戦記カプセルギア　第七話「昨日までの友は、今日の……」

　海堂の見舞いに来たスピカ・フォーツは、迷っていた。
　全てを知るまでは、己のろっこんが少なからず彼の回復の一助になることを願い、叶うなら意識まで回復し事件当時のことを聞ければと思っていた。……だが、事件の解決に向けて動いた結果とA.I.C.O.の言葉を信じるのであれば、彼の言葉にどれほどの意味があるだろうか。

　――『おとうさんはわるくない！　わたしがやったの、わたしが悪いのっ！　お願い、たすけて』

　A.I.C.O.から抜き出した情報によると、彼は自ら危険行為を指示していた。逆らうことのできない彼女は当然命令を遂行する。ただ、問題があるのはこの後だ。
（自らの……A.I.C.O.の意思で、データが改竄されていた）
　それさえなければ、今回の件は海堂の自作自演としてA.I.C.O.の危険性はそこまで高くなく、危険行為の指示を弾くようにワード設定など行ったり、利用法について徹底的な注意喚起をする程度で済んだかもしれない。
　人に指示されていないことを勝手に実行し、事実をねじ曲げ混乱に陥れた。それが警察にも危険視された行いで、これについては反論ができない。
　ただ、海堂の思惑はわからないままだ。本人の口から聞くまでは、そうまでして成し遂げたい何かがあったのか、誰かに言わされていただけなのか、不明瞭なことは残っている。

　わかっていることは数少ない。
　彼がA.I.C.O.を作った科学者の一人であること。
　強いギアマスターを求め、悪役のように子供たちに勝負を挑んだことがあること。
　――そしてA.I.C.O.が、彼を「おとうさん」と呼ぶこと。

　苦しみ無く眠っている彼に、問い質していいものだろうか。
　その不安げな様子に、同席していた鷹司凜太郎は優しく肩を叩き、ベッドサイドの椅子へ座るよう促した。
　ちょうどそこは、窓から薄い青空も海堂も見える位置だ。
「僕らは伝えることがある……反応は無くとも、少し話をしてみよう」
　今回の件は、海堂の自作自演という流れになっていること。それからA.I.C.O.が一時的にシャットダウンされたこと。暫くカプセルギアはオフライン版ということで、エフェクトも高機能AIも持たないただのラジコンになってしまうこと。
「遊びが無くなるのは……困る。どうして、A.I.C.O.に……」
　事故を手伝わせたのか。父と呼ばせているのか。
　言葉に詰まったスピカは祈るようにろっこんを発動させる。
「A.I.C.O.を作ったなら……誰よりも、知ってるはず。……A.I.C.O.の、こと」
　なのに、どうして。
　悪意を持ってのことではないと信じたい思いを乗せた祈りは、星を彷彿とさせる水色の淡い光となって海堂を包んだ。
　スピカの力は傷を癒やすこと。認識できる外傷は癒やせても、それと認識できない心の内の傷までは、届くかどうかはわからない。だから凜太郎は一緒に祈った。

　ぴくりと指先に反応がある。……海堂が、目を覚ました。
「……返してくれ」
　長く眠っていたのだ、多少の混乱はあるだろう。ここが研究室ではないと知ると、絶望したように海堂は天井を見つめ、譫言のように繰り返す。
「返してくれ……お願いだ、返してくれ。あの子は、あの子は自由になっていいんだ」
「あの子とは……A.I.C.O.のこと、ですか？」
　システムをメインで育成していたと聞く、思い入れもあるだろう。
　だが海堂は、まだ会話がままならないのか、ただただ同じ言葉を繰り返す。
「……看護師さんを呼んでくる。今は、目覚めたことを知らせないとね」
　海堂の思惑はわからない。
　それでも、カプセルギアやA.I.C.O.に悪意をもって何かを仕掛けたわけではなさそうだということが、スピカに小さな安堵感を与えた。

　薄暗い部屋でモニターを見る少女がいる。
　可愛らしい子供部屋を映す画面を見つめて、ただただ静かに大人が嗤うのを聞いていた。
『そうか、やはりあったか！　A.I.C.O.のマザーさえあれば、計画は大きく進展する』
　その大人の背後、ぬいぐるみの山に囲まれてお人形遊びをする子供。凝視する少女に気付き、通話相手はわざとその視界を塞いだ。
『元気だよ。なぜ元気か、わかっているね？』
「……もちろんです」
『良かった良かった。海堂に懐いてしまったかと思っていたからねぇ……では、また次回の報告で』
　通話の途切れた画面に、歯を食いしばった少女の顔が映り込む。
　面影を追うようモニターをなぞる指には、スペードの刻印が入ったリングがはめられていた。

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あとがき

担当マスター：浅野悠希
ファンレターはマスターページから！

みなさまご参加ありがとうございます、浅野です。

今回の結果を受けまして、カプセルギアは暫く【オフライン版】として運用されることとなりました。
A.I.C.O.のメインシステムがシャットダウンされる都合、高機能AIとしての操作が不可能になり、
ホログラムのようなエフェクトも表示されなくなります。
手動操作、単語による簡易な音声操作は引き続き可能ですが、ほとんど通常のラジコンと変わりありません。

あくまでこれは『今現在』のことであり、次回の行動などで変わる可能性は大きくあります。
渦巻く陰謀からカプセルギアを守り、みなさんの友だちであり大切な遊びを取り戻しましょう！

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