【商機ッ！！】

　ワールドクエストは、リキッド大陸でことに重要な事件や出来事に際して行われる。ある種のお祭り騒ぎとも言えるだろうか、期間中はどこもかしこもプレイヤーがあふれ、ゴブリンの襲撃に備えて新たなパーティメンバーを募ったり、装備を新調したりそれぞれのクラスに有効なアイテムをトレードし合ったり。プレイヤーたちは実に活発な交流を交わしていた。
　やはりここは、商機を見逃すまい！　流行に敏感なタビガラス（プレイヤー：旅鴉 月詠）も、イベントにふさわしい商売を始めた。
　といって、前回オープンしたペットランのような斬新な切り口ではなく、やることは原点回帰。商売の基本、露天商である。
「へーい、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。ゴブリンとの連戦を見据えて、ポーションの補給はいかがかな。対ゴブリン族に特攻効果のあるバフ料理もある。ヒーラーの魔力回復用ならこちらがオススメだよ」
　ワールドクエストに特に有効なアイテムを、サイディア王都シードルの城門前、すなわちもっとも往来の激しい場所で売りさばくのだ。
　商品の多くはペットランの収益や、寄付としていただいた薬草系アイテムなどから成る。クラフトマスターの便利なところで、あるアイテムを別のアイテムへと加工できるのだ。効果の薄い薬草などを、こうしたバトル系イベントで特に需要の高まるアイテムへと変換し、ピンポイントで売り出した。


　こんな時は、タビガラスの慧眼がきらめくのだ。
「＜タビガラスのカルボナーラ＞？　これどういう効果？」
「魔力を一定時間の間、継続回復してくれる。オラクルヒーラーならバフに回復にと消費が激しいだろう、オススメだよ」
「なるほど、いいね！　じゃ、それ１０個ちょうだい！」
「毎度あり……おっと、アルターじゃないか」
「よーっすタビガラスさん！　なあ、ゴブリン特攻の武器とかもある？　今の銃だと通りが悪くてさぁ」
「ならばこれだ、バレットチェイサー用＜グリーンヒヨコガン＞。小型で取り回しが良く、装弾数と射程、攻撃力のバランスもいい。バレルを延長した＜レッドヒヨコガン＞もあるよ」
「なんか可愛い銃だな……まあいいか、タビガラス製なら間違いないだろ。レッドのほうを買うぜ」
「ありがとう。エリン嬢にもよろしく、おっといらっしゃい。何がご入用かな」
「ハイポーションを１００個。すぐに用意できるか？」
「１００個は多いな。クラフトするから、これを飲んで少し待っていてくれ」
「ああ、頼む。これは……？」
「ウェルカムドリンクだよ」
　＜タビガラスのブルームーン＞は、カクテルのレシピから思いついたドリンク系バフアイテムだ。効果はあまり高くないが、全てのパラメータを少しずつ、数時間という長い間ブーストし続けることができる。
　このドリンクを、タビガラスは訪れる客全てに無料で配っていたが、これが非常にウケた。
「タビガラスさん、ドリンクちょうだい！」
「こっちも、ブルームーンくださ～い！」
「ウェルカムドリンク、いただくよ。商品も見させてもらおうかな」
「ヘイドリンクおまち。うむ、いくらでも見ていってくれ」
　あっという間に、タビガラスの周囲には人だかりができた。さらにその周囲には、座り込んでドリンクをあおる冒険者たちが集う。ついでに他愛ない雑談にも花が咲く。話を聞きつけ、さらに多くの冒険者たちが寄ってくる。
　いつのまにやら、あたりは宴会の様相を呈していた。
「おう、こりゃ大盛り上がりじゃのー」
「おや。シロヘビ嬢、久方ぶりだね」
　着流しを着た目つきの鋭い女性、シロヘビもタビガラスのお得意様の一人だ。白髪のおかっぱ頭をした英雄キャラで、玉楼仕込みの居合術を操る手練れ、という設定らしい。
　シロヘビはアイテム袋をがさごそと探りつつ、
「ちと、買い取ってもらいたいものがあってな」
「なんだね。なんでも買い取るよ」
　がしゃんと買取台へ置いたのは、いくつものメダルだった。
「これはこれは。＜ゴブリンハンターメダル＞か。こちらは腕力アップ、こちらは魔力アップ……ずいぶんと集めたものだね」
「うむ、狩って狩って狩りまくったのじゃ！」
　ゴブリン襲撃に際して、一定の討伐数ごと受け取ることができる報酬だ。装備品のアクセサリーで、対応するパラメータを底上げすることができる。効果はなかなか高いのだが、上昇するパラメータはメダル１枚につき１つのみで、受け取れるメダルはランダムだ。キャラクターやクラスによってそれぞれ重視されるパラメータは異なるため、どうしても不要なメダルが出てしまう。
「わしは速さ上昇のメダルが欲しいんじゃがのー、これがなかなか出んもんでな」
「なるほど。ひい、ふう、みい……では、まとめて１００００ボトルで引き取ろう」
「むっ。そりゃあちょいと、買い叩きすぎではないか？　１２０００ボトルでどうじゃ！」
「店売りよりはいいだろう。１０５００ボトル」
「１１５００！」
「１０８００」
「ぬぬぬっ、１１２００じゃ！」
　などと、買取やトレードを介したプレイヤー同士の交流も盛り上がった。
　タビガラスはこれらのメダルを希少金属へと変換し、さらに有用な武具などへ作り変え、その儲けはペットランの敷地や機能的拡充へ割り当ててゆくつもりだ。
「キャンプ場っぽくしたいのだよ。コテージなんか建てちゃって」
「おお、いいのう。わしもまた寄らしてもらおうか……が、今はひとつ、どうじゃ？　わしと即興パーティでも組んでみぬか」
　くい、とシロヘビが示したのは、ゴブリンの群れ。王都にもワールドクエストの影響は波及し、ゴブリン襲撃イベントが発生したらしい。
　タビガラスがうなずくと、ペットのスモーヒヨコが立ち上がり、クラフトマスターお得意のロボット、ヒヨコロボマッチョもがしょんと起動する。
「なるほど、いいね。ひと狩りいこうか」
「うむ、そうこなくてはな！」
　その日のタビガラスショップの収益は、ゴブリン撃退の報酬も伴って、過去最高を記録した。