space彩菓詩、今日も絶賛営業中！｜リアクション

space彩菓詩、今日も絶賛営業中！

　ティオレ・ユリウェイスはキャットロードの脇道から現れた。
　――寝子島はしばらくぶりね。
　冷ややかな青い目に感情は見られない。キャリーバッグを後ろ手に引きながら歩き始めた。
　冬物のダウンジャケットを着ても均整の取れた身体は崩れない。色落ちしたジーンズは艶やかな黒いブーツが引き立ててビンテージ物を匂わせた。
　通りの中程を超えた。茶色いポニーテールの弾む間隔が僅かに早まる。
　――ここのようね。営業はしているみたい。
　店舗の中の気配を探るような態度を改め、扉に前に立った。初めて目に温かみのある感情が浮かび、すぐに氷の冷たさへと戻っていった。

　独特な雰囲気に、ここね、と店内を見回すことなくカウンターに向かう。
　八重トラは目敏く見つけて声を掛けた。
「いらっしゃいませ～。その軽い身のこなし、歴戦の猛者でしょうか」
「星幽塔を狩場にする冒険者で盗賊、たまに副業で踊り子や軽業師もしている者よ」
　耳に掛かった髪を手で払うと多数のピアスが銀色の光を放つ。
「多彩ですねぇ。今回の目的は仕事の斡旋、ではなくて両替ですね」
　トラはキャリーバッグに目を留めて言った。
「その通りよ。話が早くて助かるわ。先月のことだけど、第七階層にある遺跡で発見したお宝の一部を持ってきたわ」
「未盗掘の遺跡のようですね～。中の状態や気付いたことがありましたら、どのような情報でも結構ですので教えていただけないでしょうか」
「それに何か意味でもある？」
　ティオレは真顔で返した。トラは笑顔を崩さず、一層、口角を上げた。
「どこの世界でも情報はお金になります～。その価値を見定めて両替の分に上乗せすることも可能になりますよ。いかがでしょうか」
「悪くない話ね。さっき遺跡と言ったけど、正しくは墓所の一部だと思うわ」
「なにか謂れのある土地なのですか？」
　トラは笑顔のまま顔を近づける。
「かつて栄華を極めた豪族だか王族の墓所があったと、古い伝承に残されている土地ね」
「それなら可能性はありますねぇ。遺跡の内部はどのような状態だったのでしょう～」
「出入りできそうなところでさえ、大半が砂に埋もれていたわ」
「侵入は不可能ということでしょうか～」
　核心に近づいたトラは小鼻を膨らませて更に顔を寄せてきた。
　ティオレは小声で話を進める。
「以前、寝子島で調達したガスマスクが役に立ったわ。僅かな隙間に身体を捻じ込んで砂を泳ぐようにして奥へと向かった」
「罠の類いはどうでした？」
「そう言えばあったわね。折れた槍の穂先や矢尻をいくつか見つけたわ」
　トラの糸目が開いた。純真な子供のように目を輝かせる。
「私の見解だけど、侵入者によるものではないと思う。大量の砂で誤作動を起こしたと考えられるわ」
「どうして、そのように思うのですか？」
　やや声のトーンを落として聞いた。
「両替用のお宝を見ればわかるわ」
「わかりました～。喜んで査定させていただきます。それと遺跡の情報料も上乗せしておきますねぇ」
　トラはキャリーバッグを受け取った。中身を目にした直後、急いで奥へと引っ込んだ。両腕に抱えるようにして大量の資料を持ち込んだ。
「……この文様は年代の手掛かりになりますねぇ」
　黄金色の腕輪に彫り込まれた一部を資料と照らし合わせる。用途不明の金属の塊は特殊な分析器を使った。
　細々とした作業の果てに両替手数料を差し引いた金額をキャリーバッグに収めた。
「先程の言葉の意味がわかりました～。侵入者がいたらこのような高価な品々は残されていなかったと思います。相当な額なので十分に気を付けてお帰りください～」
「私は盗賊よ。心配ないわ」
　ティオレは微笑むとポニーテールを弾ませて帰っていった。

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あとがき

担当マスター：黒羽カラス
ファンレターはマスターページから！

　今回はspace彩菓詩の日常を描いてみました。
　詰め込まれた情報が多くて、全体的に読み応えのある内容となりました。
　利用する人によって店は様変わりします。今後は店だけで終わらず、
　情報収集で走り回る八重トラを描いてもいいかもしれませんね。
　ちゃっかり店の掲示板を使って人員募集をしたりすることも（またまた～）。
　先の展開はまだ考えていませんが、いろいろと想像させてくれるキャラクターだと思います。
　弄り甲斐のある愛らしいＮＰＣに育ってくれることを願っています。

　最後になりました。ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
　また別のシナリオで会えることを楽しみにしています。

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