space彩菓詩、今日も絶賛営業中！｜リアクション

space彩菓詩、今日も絶賛営業中！

　『space彩菓詩』（すぺーすあやかし）はキャットロードの一角にあった。親しみのある外観に魅せられて自然と人々が集まる。
　二度目の来店となった万条幸次は注文の品を待っていた。三人掛けのソファーにゆったりと座って摩訶不思議な調度品の数々を眺める。膝の上には愛猫の花遊が目を細めて蹲り、大きな欠伸をした。
　幸次は花遊の頭を撫でながら壁に掛けられた掲示板に目を凝らす。内容は寝子島だけで収まらない。星幽塔の依頼や人員募集まで貼り出されていた。
「星幽塔ねぇ。そう言えば花遊とも何回か行ったよねぇ」
　花遊は不機嫌そうな声で鳴いた。
「不満でもあるの？」
　小言のように何回も鳴いた。その間に一人、また一人と客が訪れた。店内に入るとリラックスした状態で本来の姿に戻る。虎と狼の獣人は友人関係にあるのか。揃って掲示板へと向かう。
「ここなら大丈夫だねぇ」
　幸次は目を閉じた。ろっこん『猫チェンジ』で頭部に猫の耳が生えてきた。同時に進化能力１を使ってネコ科の動物との会話を可能にした。
「さっきの話だけど、ブロゥ（ライオンで名をブロケイド）に嫉妬しているとか？」
　花遊は低い唸り声を上げた。幸次の膝を前脚で引っ掻く。
「あ、爪はやめて。そんなに怒らなくても。誤解だよ。贔屓なんてしてないって」
　幸次の笑みを見ても怒りが収まらない。花遊は低い声で立て続けに鳴いた。
「そうは言うけど、あっちの世界は危険がいっぱいなんだよ。凶悪なモンスターがたくさん潜んでいて本当に危ないんだって。え、ブロゥはいいのかって？　まあ、それは大型の肉食獣だからねぇ」
　幸次の困ったような笑みを見て花遊は身体を丸くした。一応、納得したようで不満の声はなくなった。その代わりとばかりに尻尾を振り始める。
「安全な階層でいいなら、今度、一緒に行こう。本当だよ、約束する」
　幸次は花遊の頭を撫でると、鋭い鳴き声が返ってきた。
「頭はもういいって？　そうだね、悪かったよ。じゃあ、喉にするねぇ」
　掌をそっと差し出し、指で喉元を優しく弄る。
　そこに店員の八重トラがトレイを片手に戻ってきた。注文の品を手前のテーブルに静かに置いた。
「お待たせしま……」
　トラの動きが止まった。幸次の指の動きをじっと見る。糸目が僅かに開き、もじもじした状態で頬を赤らめた。
　幸次はトラの存在に気付いて、ありがとう、とサイダーを手にした。
「こちらこそ～。眼福でしたぁ」
「なにかしたかな？」
「またまた～」
　トラは小さく手を振って目を細める。要領を得ない幸次は微妙な笑みを浮かべた。
「少しいいか？」
　掲示板の前にいた狼の獣人がトラに声を掛けた。
「なんでしょう」
「この第八階層の狩猟の募集を、もう少し詳しく教えて貰いたい」
「わかりましたぁ。では、ごゆっくりどうぞ～」
　トラは幸次と花遊に一礼して微笑んだ。どこか夢見心地な足取りで二人の獣人の元へと向かった。
「俺、なにもしてないんだけど」
　花遊は後脚で立ち上がり、テーブルに置かれた猫用のおやつを小刻みに食べる。一度、幸次の方を振り返って間延びした鳴き声を出した。
「なるほど。花遊をうっとりさせた指の動きのことなんだねぇ」
　幸次は適度に冷えたサイダーを飲んだ。
「ここは面白いところだよねぇ。もう少し、のんびりしていこうかなぁ」
　その言葉に反応した花遊は機嫌よく鳴いた。

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