古木に囚われて｜リアクション

古木に囚われて

　雪川村に赴いた光村日向は、先客に驚いた。
　１人は山高帽に和服の青年、三毛谷道哉。
　もう１人は眼鏡の少女、神野美野梨である。
「２人とも行方不明事件を聞いてここに？」
「あぁ、行方不明者が出ているとあっては黙っておけないからね」
「私もよ。美和先生のこと、心配だから」
　３人は協力体制をとることにして、連絡手段を整えた。
　繋がるようならスマホで、無理ならば集合場所――旅館で情報共有をしようと決めた。
「急務は、閉じ込められているという人の救出だな」
「そうね。その後で、なぜ出られないのかを解き明かさないと」
　美野梨が村役場で拝借してきたという地図を、旅館の大食堂で広げて作戦会議だ。
　
（私は長生を経たあやかしなのだよ。人は猫又と呼ぶがね――なんて言われた時はびっくりしたけど、寝子島ではフツウかな）

　道哉が帽子を取り、猫耳を見せた時の驚きを思い出しつつ、日向は地図に目を落とす。
　雪川村は、楕円の一番長い直径部分を道が貫いている形だ。周りを山に囲まれ、出入り口は２つだけ。
　日向たちが入ってきた入り口は村の西側にあり、満開の古木は東の最奥。その西隣には蜂が頻繁に出入りする古民家がある。
　古民家と道を挟んだ反対側に建設事務所が建っており、村役場は村のど真ん中、道そば。
　そして、旅館は西の入り口傍に構えているのだ。
「雪川村では、古木の“ぱらいそ様”と、熊の“うるそ様”の２柱の神様を奉っているそうよ」
「ネットでは『人が蜂に閉じ込められている』とあったね。じゃあ、２人が見たっていう、蜂の出入りする古民家が怪しいのかな？」
「蜂は朝に出かけて日中に餌を探し、日没後に巣に戻るの。その時に追跡すれば、巣の場所が分かるんじゃないかしら」
「なるほど。僕たちが巣に対して行動するのは夕方ってことだね」
「了解した。情報収集の際は、私は猫の姿で過ごすことにするよ。猫の耳なら蜂の居場所は分かるから」
　三毛猫の姿に変わった道哉を撫でた後、情報収集を分担する。
　美野梨はろっこんを使って、村の猫に聞き込み。
　日向は、建設事務所と“うるそ様”のほこらへ。
　道哉は、蜂の出入りする家に偵察に。
「はい、これ。もしもの為の殺虫スプレーよ」
「ありがとう」
　日向は美野梨から殺虫スプレーを受け取り、道哉は尻尾を振って。
　それぞれの担当場所へ出発した。

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