【お三夜】猫と人とあやかしと、三つの世界が交わる夜｜リアクション

【お三夜】猫と人とあやかしと、三つの世界が交わる夜

●SideA：寝子島神社：娘と私のお三夜まつり

　空の藍色が濃くなる刻。
　梓智依子は娘の楓の手を引いて、寝子島神社のお三夜の縁日を訪れていた。
　１４歳で出産をしたシングルマザーでもある智依子であったが、３年遅れで入学した高校生活にもすっかりなじみ、今宵は寝子高の同級生と約束して、神社近くで待ち合わせしている。
「智依子さーん」
　手を振る同級生たちと合流すると、皆、キラッキラのスイーツを見たときみたいな顔をして楓を取り囲む。
「楓ちゃん可愛い！」
「浴衣、似合ってるね！」
「おねーちゃんたちといっしょに写真撮ろっか！」
　きゃあきゃあ言いながら一緒にスマホで撮影して、すっかり同級生たちのアイドルだ。
「今日は一緒に楽しもうね！」
「うん！」
　楓もすぐに同級生たちと友だちになって、あの子、この子と手を繋ぎ変えている。
（こういうのって、いいな）
　普段、同級生たちといるときは、母であることを忘れている梓だけれど、こうして娘と遊んでくれる友人たちを見ると、娘の周りにたくさんの温かいまなざしがあることを母として有難く思わずにはいられない。
　娘と、友人たちと、不思議な露店が並ぶ通りをそぞろ歩く。
「この島に来て５年になるけどこの日の夜だけは本当に不思議。人間と猫の屋台が入り混じってて」
　ちょっと気後れしてしまいそう。
　けれど楓はそんな母親を後目に猫の屋台を見つけて、
「あっ、キジタローだ！」
　とさっそく突撃してゆく。
「キジタロー？」
　見れば、屋台の店主は自宅の庭によく遊びに来るちゃっかり者のキジトラ、キジタロー（♂・６歳）にそっくりではないか。
「いやあ、これはこれは。見つかってしまいましたにゃあ」
「今年は夜店を出してるの？」
「実は今年がお三夜デビューでしてにゃ」
　聞けば、キジタローの夜店で取り扱う品は『運命万華鏡』といって、一瞬だけ運命が見えるらしい。
「ひとついかがですかにゃ？」
「ちょっと怖い気もするけど」
「大丈夫、試してみるだけですにゃ」
「そうね、じゃあ、試してみようかしら……」
「まいどありにゃ」
　爽やかなエメラルドグリーンの万華鏡を買い求め、くるくる回して覗いてみる。
　キラキラと色とりどりの輝きの中に、今よりも大人な自分が見えてくる。
　それから、中学生か高校生くらいに成長した楓の姿も……。

　すらりとした手足。
　リズムに合わせ、踊る楓は、親の目にもとても素敵で――

「あ……」
　もう一度覗いてみても、もう見えない。
　ほんの一瞬の未来予想図。
　それは、楓も自分と同じようにダンスが好きな子になっている景色だった。
　智依子は今はまだ幼い娘を見つめた。
「ねー、なにがみえたの？　わたしも見たいよー」
　ねえ、ねえ、とせがんでくる娘に、智依子は唇に人差し指を当てて、ウィンクする。
「ないしょ」
「えー、ずるーい！」
「大人だけの秘密でーす」
　自分の言葉で、この子の未来を確定させたくはない。
　けれど自分で切り開いた未来が、今見たものなら……私はきっと泣くだろう。
（この子もあと10年したら……）
　感慨深く思いながら、智依子は楓の手を引いて、高速金魚釣りの露店のほうへ歩き出した。