【お三夜】猫と人とあやかしと、三つの世界が交わる夜｜リアクション

【お三夜】猫と人とあやかしと、三つの世界が交わる夜

●SideA：寝子島神社：楽しい食べ歩き

　さてこちらは、毎度イベントやお祭りの食べ物全制覇女王の巫部紫苑。

「神社が賑やかだと思ったら、やっぱり今日もお祭でしたね…ふふ、美味しい物いっぱいありそうです♪」
　今宵も食べる気満々だ。
　まずは、近くのくだもの飴屋台に寄って、全種類一品ずつ頼んでゆく。
「ベッコウ飴にリンゴ飴、そっちのぶどうとみかんもくださいな」
　両手に１０本近くのくだもの飴を持って、ぱくぱくぱくりと食べてゆく。
　いきなり甘いものからだが、順番なんか気にしない。
　次の店は猫の店だ。
「とかげの黒焼き、スズメの焼き鳥ですかー。串１本ずつくださいな」
　多少のゲテモノも気にしない。
　誰かが食べているのなら、紫苑に食べられないわけがない。
　その証拠にほら。
「どの食べ物もとっても美味しいです♪」
　ご満悦である。
「この雰囲気とこの味、屋台の食べ歩きはやっぱり最高ですね」
　一つの屋台のメニューを食べ終わったら、また別の屋台で全種類注文してゆく。
「このまま、今日のお祭りの屋台を全店全メニュー制覇を目指しますよ♪」
　そんな紫苑とすれ違ったのは――。

◇

　ふだんは下しているボブの髪を結いあげて、藍の浴衣に身を包んだ綾辻綾花とテオである。
「ふふ、テオに会えてうれしいです」
　微笑む綾花に、テオはつんと鼻先を上げて、
「俺はそうでもないけどな」
　と相変わらずのツンデレぶり。
　そんなところも綾花にとっては微笑ましい。
　巾着の中に猫缶と煮干し入ってるけど、露店の食べ物のほうが良いかな、と綾花はテオに尋ねる。
「テオ、どこの露店行きたい？」
「どこ、と言われてもな」
「ネズミ射的とか？」
「それでいい」
　というわけでやってきたのは、素早く走るネズミが的の『ネズミ射的』。
　まずは綾花。店主の鼠に簡単な説明を受けてコルクを詰めた空気銃を構える。
「私の腕は期待しないでね」
　という言葉どおり、俊敏な鼠に一発も当てられずに終わってしまう。
「うー、難しい！　次はテオね」
「なんで俺が……」
「テオ、頑張れ！　ちゃんと参加費は私が払うから」
　綾花が猫の姿のままのテオを抱きかかえる。
　テオは鼠の店主から渡された空気銃をしぶしぶ構え、ポンポンポンと発射する。
「あれ？」
　一発も当たらない。どころか、鼠が走っている景品台にすら当たっていない。
「だーっ！　直接飛び掛かったほうが捕まえられるわーー！！」
　暴れそうになるテオを宥めて、次の露店へ！

「テオー。機嫌直して。にゃんこも食べれられる木天蓼たっぷりお好み焼きだよー」
　がぶがぶとかぶりつくテオ。
　綾花はしゃがんで、苦笑いしながら見ている。
「食後に猫缶と煮干しどっちにする？」
「両方！」
「いいよ。もふもふさせてくれたら両方あげるね」
「む」
　眉間に皺を寄せたテオだが、綾花のキラキラの瞳を見ると、断り切れなかったようで。
「ちょっとだけだぞ」
　と綾花の膝に乗って来た。
　綾花はテオをもふもふする。テオはまんざらでもなさそうだ。
「ふわああ……！　幸せです～～」
　あんまりテオを独占しては、ミラに悪い。
　このあたりにしておこう。それに、
（珪先生にも会いたいな）

◇

　屋台の全メニューを食べ歩きながら歩いていた紫苑は、いつしか境内まで来ていた。
「折角だからお参りしていきましょうか……あら、」
　狛猫たちが何やらウロウロ、同じ場所を行ったり来たりしている。
（なんか狛猫さん達の表情がいつもを違うような？）
　こてり、と首を傾げる。
（……う～ん、気のせいですかね？　久しぶりに見たからそんな風に思っただけかしら？）
　気にはなったが、緊迫した雰囲気で声をかけるのも憚られ、紫苑はそのまま本殿へ向かう。
　お賽銭を入れて、がらがらと鐘をならして、二礼、二拍手。
（今年も残り少しですけど、美味しいものがたくさん食べられますように……そして、来年も美味しいものがいっぱい食べられますように……）
　お願い事をして、最後に一礼。
　うん、きっと大丈夫。