DOG110、寝子島に！｜リアクション

DOG110、寝子島に！

　ひゅるり風の吹き抜ける海浜公園に英子は１人立ち尽くしていた。
　確かに、ここでライブをすると聞いたはずなのに、目の前に広がる光景はどうだろう。
　ステージもなければ、ファンもいない。まったくライブをするような気配はない。
「……あいつ、騙しやがったな！」
　プンスカ怒りながら、英子が公園を後にすると、後ろからドタバタと騒々しい足音が近付いてきた。
　あんあん達だ。
　英子の真横を抜けてひたすらに走っている。先頭を走る絵梨菜が息を切らせ声を上げる。
「急いで！　アウトレットはこっちだよ！」
「時間は？」
　円が尋ねると綾花が答えた。
「16時半です！　到着はギリギリになりそうですね……！」
「つばめとかっぺちゃんは大丈夫かなぁ……」
　不安そうにあんあんは言葉をこぼす。
「つばめ……？　あのメガネもDOGのメンバーか？」
　英子は彼女たちを追いかけた。
「おい、お前らどこ行くんだ？」
「ニャワレコ！　これから、ライブなの！」
「にゃ、にゃわれこぉ？」
　あんあんの返事に英子は面食らった。
「ぜ、全然違うじゃねぇか、つばめの奴！」

　ニャワレコのイベントスペースで、柴さん、修、瑠奈がせっせと準備を進めている。
　既に30分前からお客さんが入り始め、時期に満員になろうとていた。
「楽屋はお店のスタッフさんの休憩室の一部を貸して頂くことになっております。
　ライブ終了後の握手会で使用する長机もそちらに置かせて頂いてますので、ライブ時間を見て我々で移動させましょう。
　音源は既にスタッフさんに渡してありますので、ご心配なく。
　また、特典対象の商品なのですが、ニャワレコさんのほうで販売し、その都度お客様に特典券を配布する段取りになりましたのでよろしくお願いします」
「あ、うん。了解です」
　もうどっちがマネージャーなのかわからないくらい手際良く修が段取りをしてくれていた。
「でも、もう時間ないよ。16時40分……そろそろリハーサルしないと」
　瑠奈が言った。
「そ、そうなんだけど……誰もまだ……」
　とその時だ。ドタドタとエスカレーターを駆け上がってくる足音が聞こえた。
　つばめ、かっぺちゃんに続きあんあんだ。
　３人に何か言いたそうな柴さんを遮り、瑠奈は衣装を渡し、修はこれからの流れを手短に説明する。
「……間に合ってよかった。けどすぐに着替えて。10分後にリハ、いいね？」
「は、はい！」
　てきぱきと話す修を、新しいマネージャーかな？　と思いつつも、瑠奈と控え室に走った。
「よ、よかったぁ……」
　安堵する柴さん。
「どうにかなりそうですね……ん？」
　するとかっぺちゃんだけ戻ってきた。
「柴さん、円城さんにお金払っておいで」
「へ？　お金？」
　はっとしてみると徹が立っていた。
「お忙しいところ恐縮ですがタクシー代を……こちら領収書です」
「あ、す、すみません……」

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