ひろわれっ！｜リアクション

ひろわれっ！

◆些細なきっかけ

　秋の夜長。
　マリエッタ・ラシュリエは遠距離恋愛中の恋人・嶋村直之と電話をしていた。彼はアメリカにいるので国際電話だ。他愛のない話を織り交ぜながら近況を語り合う。しかし些細なきっかけで喧嘩してしまい、マリエッタは一方的に電話を切った。
　彼女は完全に頭にきて、衝動的に家を出た。その足で始発の電車に乗り、そのまま乗り継ぎを繰り返し――降り立った先はいままで来たこともない田舎町だった。

「どこ、ここ？」

　スマホで現在地を確認すると長野県の中部辺りだということがわかった。

（怒りに任せて衝動的に行動したとはいえ、こんなところまで来てしまうとは……）

　辺りを見ても特に観光名所のような場所はなく、いくつかの史跡がぽつぽつとあるだけ。一応それを巡ってみたけど心細さと喧嘩したことへの後悔が募ってくる。
　そのうちなんだか惨めになってきて、おまけに寂しさもやってきた。積もる感情に耐え切れず、いつのまにかその辺で膝を抱えて泣いていた。

（なにやってるんだろう私）

　ここが人の少ない田舎で良かったかもしれない。都会の真ん中だったら注目の的だろう。

「あの、大丈夫ですか？」
「え？」

　ふと声を掛けられて顔をあげると、地元の人と思われる親子がいた。心配そうな表情を浮かべてマリエッタのことを見ている。

「だ、大丈夫です」

　涙声を誤魔化しながら、なんとか返事をする。
　しかし親子の表情は変わらない。見かねた彼らはマリエッタを自分の家に連れていくと提案した。彼女は戸惑ったが、うまく断る言葉も出てこなかったので流されるままについていった。
　そこはよくある瓦屋根の一軒家だった。マリエッタは座敷に通されると、そこの家族が煎茶とお茶請けを用意してくれた。

（申し訳ないな……）

　そう思いつつお茶を飲んでいると少しずつ気分が落ち着いてくる。お茶請けもおいしく、泣いていた顔もいつもの顔に戻った。長居するのも悪いのでそろそろ帰ろうと思ったら外は暗かった。街灯が少なく、暗さがいっそう引き立つ。

「今日は泊まっていくといい」

　マリエッタはその言葉に甘えることにした。夕ご飯とお風呂もいただき、すっかり元気になった。ふとメールの着信音が鳴る。恋人からのメッセージだ。彼も些細なきっかけで喧嘩したことを後悔しているらしい。
　それを見てほほ笑むと、彼女も一言謝罪を入れて、今日経験したことを返信した。

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