ひろわれっ！｜リアクション

ひろわれっ！

◆想定外

「おかしい……」
　
　稲積柚春はパンパンに膨れた買い物袋を抱えながら呟いた。

「買い物カゴに入れている最中はこんなに重くなかったのに……」

　自分の想像以上に買いすぎたのか、かなり重い。柚春はスーパーで何をしていたか思い出そうとする。

（たしかお野菜が安かったから色々買ったんだよね。あ、あと炭酸水もちょうど安売りだったからカゴに入れて。それからスコーンも作りたかったから小麦粉も……）

　柚春は自分が買いすぎたことを自覚した。買ってしまった以上、この荷物をどうにか家まで運ばなくてはいけない。一人暮らしなので、買いすぎたからと迎えに来てくれる両親は居ない。
　手伝ってくれる彼氏もいない。そのときふと、ウォルター・Bの顔が浮かんだ。

（……ウォルターさんなら、こういうときに呼ばれたらどうするんだろう？）
　
　休憩のため重い袋をいったん降ろす。秋の風が火照った体を冷ますように撫ぜていく。

（偶然会えたら、流れるように荷物を半分持ってくれたりとか、車で拾ってあげるなんて言ってくれたりとか……ないかな）

　街中を行き交う人々に視線を送る。車の往来もそこそこある。

（彼の車には乗せてもらったことあるけど、どうせ乗るならやっぱりデートがいい。今日は早く冷蔵庫に入れなきゃいけないものもないから、デートはできるんだけどな）
「……稲積、どうしたんだい？」
「え？」

　顔を上げると見覚えのあるロイヤルブルーのスポーツカー。そこから私服のウォルターが降りてきた。予想外の出来事に、柚春は少し固まった。どうやら彼もこの辺りに用事があったらしい。

「道端で座り込んでいるから、どうしたのかと思って」
「あ、その、これは」

　少し恥ずかしかったけれど、事情を正直に説明した。それを聞くと彼は買い物袋に手を伸ばした。

「確かになかなか重いねぇ。車で送るよ」

　彼は車に袋を乗せると、柚春に助手席に座るように促した。柚春は嬉しい気持ちでいっぱいだった。ウォルターに会えたことだけでなく、先ほど思い描いていた情景が今まさに実現していることに。

（買い物袋からは野菜とか見えていて、デートっぽく見えないかもしれないけどこれはこれで新婚に見えたりするかも？）

「それにしてもたくさん買ったねぇ」
「色々試しているんだよ。この間、メアリさんからレシピをもらったから」
「なるほど」
「美味しくできるように、いっぱい練習するから……いつか、拾うんじゃなくて貰ってね？」

　ウォルターは少し不思議そうな顔をしてから、楽しみにしているよと彼女に告げた。拾うという言い方になじみが無かったのかもしれない。

「どれから練習しようか迷ってて、お弁当とお菓子ならどっちがいい？」
「そうだねぇ……」

　柚春の自宅に帰るまでの間、２人でドライブを楽しんだ。

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