更衣室の落とし物｜リアクション

更衣室の落とし物

●広がる噂

「なんか男子が騒いでるけど、男子更衣室で何かあったのかしら」
　橘千歳は、噂を小耳にはさみ小山内海と話していた。
「風紀委員としては、トラブルでも起きているのなら対処しないといけないのだけど、さすがに男子更衣室に入っていく訳にもいかないし……
　あ、刀君。ねえ、何があったの？」
　呼び止められた御剣刀が答える。
「女性の下着が男子更衣室に落ちてたらしい」
「なんで、男子更衣室に女性用下着が落ちているのよ？」
「さあ？　誰が持ち込んだんだろうな。考えたくないけれど、パンツの持ち主が男性の場合も……」
『さいきん、したぎどろぼうがいるらしいの』
　声の出せない海がスケッチブックを見せる。
「下着泥棒？」
『そんなときにあさいせんせいが　こういしつでじょしのしたぎをひろったって。
うん、うたがわれてもしょうがないよね』
「そういうことだったの……」
『まぁ、あのせいかくだし、したぎどろぼうなんてやる　どきょうがあるともおもえないし』
　クラスや陸上部員以外の女子にまで性格を把握されている浅井先生であった。
『もちぬしがだんせいって……さすがにそれはないかと
　あ〜……フジコせんせい……？』
　いろいろ想像したくなかったのか、男性についての話題は続かなかった。
「無くした人は困っているだろうし返してあげた方が良くないか？　まさか千歳や小山内の下着じゃないよな」
　そんなことを思ってしまった刀の視線が動く。
「……さっきから刀君の視線の動きが不自然な気がする。
　えっ？　私のじゃないに決まってるじゃない。ちゃんと穿いてるし……って、刀君！　もう、何を言わせるのよ」
『たしかにわたしのではないけど……でもかたなくん　なんでそうおもったの？』
「えっ、だって以前見たときは……あ、なんでもないって、痛てっ！？」
　口をつぐんだときにはもう遅く、思わず千歳は手を振り上げて、刀の背中をバシバシ叩いた。
『まえって……な、なんでおぼえて……～っ」
　海も顔を真っ赤にする。
「えっと、いや、忘れるとか無理だって、うん」
『わすれられないくらいのできごとだった？
そ、そっか。わすれられないんだ……』
「千歳さん、私は貴方を疑っていますって視線は何でしょう？　俺は関係ありませんよ？」
　思わず丁寧語になっている刀。
「刀君が故意に盗むことはないだろうけど……これまでの経験を考えると、落ちてきた洗濯物の下着が偶然に鞄にとか、ハンカチと間違って下着をポケットにとか、ありそうで怖いわ」
『かたなくんはやってないってしんじていいんだよね？
　むっつりさんだけど　はんざいこういまではやらない……よね？
　ふだんのことかんがえるとアレなきもするけど、しんじるからね』
（小山内にも滅茶苦茶疑われている！？）
　どうやら刀にとっても他人事ではない状況になったようだ。
「更衣室に落ちていたのなら、直前のプールの授業で更衣した時に誰かが落としたのよね。
　それ以前だったら、誰かが先に見つけているはずだだから。
　つまり、犯人は最後に更衣室を使ったクラスの男子生徒の誰かじゃないかしら？」
　千歳が冷静に推理した。

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