更衣室の落とし物｜リアクション

更衣室の落とし物

●職員室にて

　森蓮の耳にも噂は入ってきた。
（浅井先生が下着泥棒と疑われているのですね。先生は、なぜ女性の下着を持っていたのでしょうか。
　浅井先生に異性装の嗜みがあるのでしょうか）
　真相を明らかにし、浅井先生が冤罪なら汚名を雪ごう、と蓮は職員室に向かった。
「浅井先生はお留守ですか。では目撃者の高野先生にお話を伺いましょう」
　
　直風満帆と旅鴉月詠も、職員室に高野有紀を訪ねたところだった。
「よろしければお話を聞かせてください」
　蓮は高野先生に話しかける。
　月詠もそれに加わる。
「やあ高野先生、噂は概ねですが聞いています。生徒の情報網は甘く見れませんからね。
　高野先生はまず謝らないといけない。浅井先生が白か黒か判断つかない状況だ。
　これは痴漢容疑と同じで白であったとしたら貴女が浅井先生を貶めている事になる。事件も無くならない」
　高野は腕組みをして話を聞いている。
「……大体、うちが背後から抱きついただけで『ホンマに25歳なん？』って疑いたくなる程動揺するヘタレが、更衣室に忍び込んで下着ドロとか……出来るわけないやん。ましてそんなヘタレが校外で盗るとか論外やしな」
　浅井のクラスの生徒で、陸上部員でもある満帆の言葉は力強かった。
「よろしければ教えてくださるとありがたいのですが、なぜ浅井先生が下着泥棒だと思ったのでしょうか」
　蓮はまっすぐに高野の目を見て語り掛けた。
「私だって疑いたくないが、下着泥棒が浅井先生に似ていたという証言がある。
　そして現に、女子の下着を隠し持っていた」
　高野の言葉に、蓮が畳みかける。
「そうですか。ありがとうございます。もう少し詳しく教えていただけますか。似ていたというのはどなたが証言しているのでしょう」
「登校中の寝子高生が話していたが、名前まではわからない……」
「もし実際に下着ドロがあったなら、女子の間で大騒ぎになると思うけど、うちそんな話聞いたこと無いで？」
　満帆が詰め寄る。
「あとゆーきちゃんの話やと、被害を先生に報告した様子が無いていうのも変やわ。
　もし実際に被害あったなら、取られた子はその場で誰にも相談せず、残りの授業を履かずに受けた事になるけど……ありえへんやろ」
「そうだね。ノーパンもいるにはいるかもしれないが。此処に盗まれた下着があるならば、盗まれた女子がいるはず。
　家庭科室の端切れやコスプレ部の備品かもしれないが……サイコメトリでもないとそこまではわからないな」
　月詠はあくまで冷静だ。
「うーむ」
　高野先生が腕を組みなおす。
「もしかして、そういう噂を自分の周囲狭い範囲だけに流して、下着を手にしたあさちゃんせんせを自分たちで発見・脅迫して責任取らせよていう、行き過ぎた狂言とかちゃうん？」
　満帆がそう言ったとき。

「失礼します」
　職員室に入ってきたのは神無月綾だった。
「高野先生、つかぬ事をお聞きしますが、白地にイチゴ模様のパンツの届け出がありませんでしょうか？」
　４人の視線が綾に集まる。
「最近下着泥棒の噂を聞いたので今頃、犯人が……
『なめらかかつ濃厚な口当たり』とか言いながら食したり、『くんかくんか……大草原の香り』と自然に帰ってると思われます。
　と、犯人はかなりの変態かと……致命的なくらい人間を逸脱したレベルの……一番大事な下着ではありませんが盗まれたのは困りものです」
　淡々と遠くを見るように無表情でしゃべる綾。
「ということは、あの下着は神無月のなんだな。わかった、すぐ取り返して来よう」
　高野が言う。
　黙って頷き、綾は続ける。
「私は風紀委員として犯人捜しをしたいと思いますので失礼します。何かわかりましたらご報告しに参ります。
　聞き込みなら同じ女子の方が話しやすいでしょうし、メンタルケアが必要な生徒がいましたら高野先生、話を聞いて上げてください。
　私は『他人を信用』出来ませんから適役ではありませんので……」