寝子暦1371年のハッピー・ハッピー・ハロウィン☆デイズ！｜リアクション

寝子暦1371年のハッピー・ハッピー・ハロウィン☆デイズ！

　寝子島スタンプラリーはつづく。
　終盤はさすがに厳しかった。うっかり見落としていたポイントがいくつもあったためである。目の前を通りすぎておきながら忘れていた店すらあった。だから同じ場所を何回かめぐる必要があった。現在ふたりはキャットロードにいるが、スタンプラリーをはじめて通算三度目だ。
　それでもがんばった。このとき夏朝と夏夜の恵御納姉妹は、ついに九十八個目のスタンプを押したのである。
「歩き疲れたね」夏朝の声もいささかぐったりしている。「でもあと二個で百個達成！　あとひとがんばりだよ」
　もう日曜日の夕方だ。ただしタイムリミットにはまだ間がある。
「どこか店に入って休んでいこう」
　夏夜の提案に夏朝は即座に賛成した。
「夕食時だし、座って食べれるお店がいいな」
　顔を見合わせて同時に前方を見る。視界に入ったのは見覚えのある看板、メイド喫茶『ねこのて』だった。
「あれ？　もしかして」夏朝の言葉を夏夜が継いだ。
「だね。灯台下暗しというか、知ってる店だけに忘れていた」
　もちろん『ねこのて』もスタンプラリー協賛店だ。なのにふたりは見過ごしていたことに気がついたのである。
「よし、スタンプ九十九個目は『ねこのて』に決定！」
　さっそくふたりは扉を開けて、桧垣万里の「おかえりなさい」を聞いた。（ゾンビメイドだったのでちょっと怖かった）
　むかいあってテーブルを囲み、椅子に座って足を伸ばせば、今度はおなかがグウと鳴った。いいタイミングで来たといえよう。
　せっかくだからとハロウィンスペシャルメニューをひらいた。
「血の池シェイク？　さすがにこれはホラーすぎるかなぁ……でもちょっと見てみたい」
「いいよ、注文して。僕がもらうから」
「ありがとう夏夜ちゃん。じゃあ僕は、見た目もかわいいハロウィン☆オムライスにしようかな」
　カボチャマスク型に卵が加工されているのだ。コウモリに型抜きした海苔のトッピングつきだった。
「いいね。僕はハロウィン☆ナポリタンにしようか」
　こちらはパスタがお化け型に盛ってあり、スライスチーズと海苔でつくった目玉がついているという一品だ。もちろん怖さは控えめである。
　食べ終えて夏朝はミルクティーを味わっている。夏夜はシェイクはほどほどにして、黙ってスタンプ帳をめくっていた。
「どうしたの夏夜ちゃん」
「やっぱり、って思ってね」
「やっぱり？」
「数えまちがいだったよ」夏夜の口元がほころんでいた。「ここのスタンプをもらうと百個達成だ」
「じゃあ、この店のスタンプでゴールってこと！？」
「だね」
　やったぁ、と言い夏朝は我が胸を抱いていた。達成感が高波のように押し寄せてくる。
　メイド喫茶を出て駅前のインフォメーションセンターに持って行くと、その場でスタンプ七十五個までの景品は全部受け取ることができた。百個達成者限定の『秘密のアイテム』は後日郵送されるという。ここまで達成できる参加者は少ないという予測から、達成者分だけ作成するためだ。
「秘密のアイテムは、愉快な景品だって話だね。猫グッズか、ハロウィングッズか……」
　商品が全部入ったエコバッグを手に夏夜は言う。たくさん入っているだけに重い。でも充実の重さだ。
「うん。可愛いものだったらいいな。ホラーだったら」
　ちょっと困るかな、と夏朝は苦笑いした。
「でも寝子島のハロウィン、今年は平穏で良かった」
「そうだね。僕にとっては実体験できた初のハロウィンだったから、感慨もひとしおだよ」
　来年も、と夏朝が言うと、一緒に、と夏夜が応じた。
　あとの言葉はひとつだ。
「楽しめたらいいな」