寝子暦1371年のハッピー・ハッピー・ハロウィン☆デイズ！｜リアクション

寝子暦1371年のハッピー・ハッピー・ハロウィン☆デイズ！

　呉井陽太は思いついた。
　あの店もスタンプラリーをやってるのかな。
　気になるとたまらなくなる。ナターシャに言った。
「立ち寄りたい店があるんです。ここからだとちょっと遠いですが、いいですか」
「店か？」
「飲食店です。気になることもあって」
「なんという店だ」
　ええと、と陽太は言葉のエンジンをアイドリングする。明かすべきか秘すべきか。
　ナターシャさんが元気なかったら、ごまかしたほうがいいのかな。
　でも顔色はいいみたいだし、話があると言っていたけど、もしかしたら関連するかもしれないし。
「保護猫カフェ『ねこのしま』です。前に、根積さんと会った場所です」
　根積宏一郎の名を出すことには躊躇した。ナターシャと根積はともにDUALだ。因縁浅からぬ関係で直接対決もしている。でも隠すほうがよくないとも思った。
　杞憂だったのかもしれない。ナターシャはとりたてて大きな反応をしなかった。「そうか」と言っただけだ。
　店に着いた。かわいい猫のノッカーを叩いて入店を告げると、店長の鈴木冱子が出迎えてくれた。

「スタンプラリー？　こちらでどうぞ」
　ここまで来てくれる人はあまりいなくて、と冱子はスタンプ台を示した。
　たしかに、あまり使われた形跡がなかった。はみ出たインクで汚れがちなスタンプ台もきれいなものだ。店は本通りからは外れ、ほぼ住宅地という立地の悪さもある。しかも地下なのだ。熱心にスタンプを集めている人でもないかぎり訪れる者はないのだろう。
　青インクをスタンプになじませる。押す。もうすっかりルーティンワークになった様子で、ナターシャがスタンプ帳を用意して待っている。
　ナターシャを手伝いつつ陽太は思った。
　鈴木さん、ちょっと痩せたかな。
　前に来店したときよりずっと精彩を欠いているように見えた。
「ひとついいですか。あの……」
　思い切って陽太は尋ねた。
「根積さん、その後お店に来てますか」
「何度か」
　冱子の表情がすこし和らいだような気がした。　
　広い部屋に通された。猫がたくさんいる。だが客は自分たち以外ない。いくら『ねこのしま』がNPO（特定非営利活動法人）だといっても、日曜の午後でこの状態というのは、あまり健全とは言えないだろう。
　来店して以来ナターシャは無口だ。恐る恐る陽太は訊いた。
「もしかしてナターシャさん、猫嫌いだったりします？」
「いや。大好きというほどではないが、たまにはいいと思っている」
　ナターシャは、近くにいたキジトラ猫の背に手を置いた。
　思い切って陽太は打ち明ける。
「実は俺、悩んでて。ナターシャさんと根積さんのことで」
　ナターシャの無言を承諾と受けて続ける。
「オレが関わることで、二人……いや、四人を追いこんでしまってるんじゃないかって……不安になっちゃったんです」
　慌てて付け加える。
「あ、嫌になったとかそーいうことじゃないですから！　気分転換にと思って誘ったのに、むしろ気分を害したのなら……」
　ナターシャは遮るように告げた。
「根積がどうなのかは知らないが」話しながら手を動かす。猫の背をなでているのだ。不器用な手つきながらゆっくりと。「私はむしろ陽太、お前に関わってほしいくらいだ」
　私も本題に入ろう、とナターシャは陽太を見る。
「最近、私とクリスは分裂したらしい。ふたりの人間に」