寝子暦1371年のハッピー・ハッピー・ハロウィン☆デイズ！｜リアクション

寝子暦1371年のハッピー・ハッピー・ハロウィン☆デイズ！

　月日が過ぎるの早すぎ。
　ぼやきたい。三折部朝衣は夜空を見上げた。
　もうハロウィンの時期だなんて。
　就職してからこのかた、時間の流れが加速しているように思えて仕方がない。今年度に入ってからはますますそうだ。今月はさらにさらにスピードアップした。カレンダーが十月になった次の瞬間にはもう月末でハロウィン、これが体感である。
　今月は朝衣にとって、人生最大の転機を迎えた月となった。

　恋人──改め、婚約者の住沢遥人と、結婚を前提に同棲をはじめたのだ。
　まるでトントン拍子の見本だ。付き合いだしてたった一年ほどで、ここまで来るなんて思わなかった。
　生まれてこのかた実家暮らしだった自分だ。それがついに、両親と弟以外の人間と暮らすようになったのだ。
　同棲は楽しいことばかりではない。生活時間帯、料理の仕方はもちろん洗濯に掃除、洗面歯磨きお風呂にいたるまで、二個の独立した大人同士が互いのルールをすりあわせる必要があるからだ。けっして大げさではなく文化の衝突だ。外でつきあってきただけ、たまに泊めてもらっただけではわからない側面を見せ合わねばならない。背負ってきた人生のカードを比較し交渉し、ときに捨てときに妥協点をさぐる。どうしても必要な作業であり、いわば通過儀礼だ。
　でも、自分と遥人の場合は今のところいい感じだと朝衣は思う。
　遥人にも遥人なりのこだわりとか好みはあるものの、あまり固執するタイプではなかった。もちろん彼だってシェフとして、絶対に譲れない仕事上の流儀はあるはずだが、生活にかんしては柔軟というか、大半は朝衣のスタイルにあわせてくれた。ただ、風呂場で小さくなった石鹸を集めてネットに入れて使う（朝衣の家ではこれが基本だ。やがて数種類の石鹸のキメラが誕生する）のだけは苦手だというので、液体ボディーソープの導入で解決を見た。
　一緒に住みはじめて一ヶ月も経っていないが、この調子でつづけたいと思う。
　だって私たち、家族になるんだから。
　家族。
　短い二文字ながら、思うだけで照れてしまう。
　さて朝衣はいま、長年の友人よっしーこと吉野八重佳とその彼氏アツシと合流してパレードに参加している。
「なんか会うのすごい久々じゃない？」
　よっしーが笑った。会うのは夏の終わり以来だ。ごめんねと朝衣は手を合せる。
「町長秘書の仕事が多忙で。サーフィンもあまり行けなかったし」
　リッカルド町長はひらめきの人である。突拍子もないアイデアを思いつき、ローギアから途中段階すっ飛ばして一気にトップギアを入れるように行動しはじめる。「こんなこと思いつきました！　実現できますか！？」「いきなりですが出張、行きます！」と周囲を振り回すのである。まるで暴走機関車、エネルギッシュな町長を止めるすべを職員はもたない。もちろん通常業務もこなしながらなので、秘書の仕事は倍々ゲームで増えていくという次第だ。
　よほどタフでないと、燃え尽きて鬱になっちゃうかもね。
　そんな風に思うこともある。なんとかこなせている自分を褒めてあげたい。
　楽しみにしていたハロウィンパレードも、よっしーたちと衣装合わせをする時間すらなかった。だから本日、八重佳とアツシはカボチャを模した楽しいコスのカップルなのに、つきあう朝衣はホラー度の高い血まみれナースというちぐはぐ具合だったのである。
　長い歴史を持つ定番軟膏のフタに描かれているクラシカルナースさん、これがベースになっている。ナイチンゲールみたいな衣装だけでも十分仮装として完成されているのに、そこに赤だったり青だったり緑だったりと、ゾンビチックなペイントをほどこしているのだ。これでヨロヨロとよろめいて歩いてみたりすれば、ホラー映画のクライマックスシーンさながらではないか。
「みおりんマジ本気度高い！」
「ありがと。明日もコンテストの裏方があって仕事なんで、憂さ晴らしかな」
　へへへと笑って八重佳と朝衣は、わいわいと旧交を温める。
　友情って、貴重。
　しみじみ朝衣は思う。少しブランクがあっても平気だ。こうして顔を合せれば、いつだって友達同士に戻ることができる。　