寝子暦1371年のハッピー・ハッピー・ハロウィン☆デイズ！｜リアクション

寝子暦1371年のハッピー・ハッピー・ハロウィン☆デイズ！

　アリサは、舞う。

　BGMは特別編集、まずは過激なハードコア、腰を使いガンガンに挑発し高めた熱を、ねっとりとしたR&Bバラードで包みこむ。楽曲選択はノリも重要だが歌詞のほうにも注意した。僕はずっと君のことを――なんて甘っちょろいライムはいらない。はっきりセックス、それもドロドロに濃いものを選んでいた。
　ハロウィンだからのチョイスではない。今夜の気分にぴったりのチョイスにしたのだ。季節感とか関係なしだ。
　デタラメで結構、アリサのポールダンスだって基本は我流なのだから。
　むしろデタラメな空気があたしのボルテージを上げて、より一層自分の中のセクシーなものを追求していこうって気になるんだよ。
　魅惑の肉体が揺れる。
　媚びるようにやわらかく、
　あるいは支配するように靱（つよ）く。
　はききれそうな胸、濡れた官能的な肌、健康的な脚線美。切れ長のまなざしで舐めるように見渡せば、死人だっていそいそと墓から起きてきそうだ。
　舌なめずりする。長い脚でミラーボールを蹴る。とっておきの開脚を見せたときにはもう、観客はすべてアリサの意のままだった。
「そんなわけで残りの営業時間、お前ら全員昇天させてやるよ、だから思いっきり盛り上がりやがれっ！」
　力一杯煽ったら、これに数倍する爆発的な歓声が返ってきた。もう黙って座っていられる者は一人もいない。興奮のあまり腰が抜けたか、へたへたと座り込んだ水着嬢ひとりを除いて。
　自然発生的にコールが起こった。
「アリサ！　アリサ！　アリサ！」
　異口同音だ。全員そろって、アリサコールを繰り返す。
「アリサ！　アリサ！　アリサ！」
　いいじゃない。
　盛り上がってくるじゃない。
　そろそろ大技といこう。
　アリサは頭から先にするするとポールを滑り、両手を舞台に、躰（からだ）をうんと弓なりに、そしてつま先まで完璧にのばして全身で完璧なアーチ型を繰り出した。しかも数秒その姿勢でかたまる。この日が初披露となる難易度A級のトリックである。

　営業時間が終わった。
　アリサは荷物をまとめて外へ出ている。衣装一式を詰めたキャスタートランクを引いていた。
　まだハロウィンのうちだよね。
　なのでほんのちょっとの遊び心、服装はベージュのトレンチコートで普通だが、帽子だけ魔女のものだったりする。
　おー、やってるやってる。
　手をかざして眺める。気分だけならコロンブス、これからあこがれのインドへと上陸せんとしたときの高揚感。
　街は、ハロウィンナイトはこれからだぜって感じで盛り上がっていたのだ。光が降っている。寝子島に比べればずっと地味かもしれないけれど、それでも夜を徹して朝までつづく大パーティだ。
　いいねえ、こういう感じ。
　仮装しなくても十分楽しめそうじゃん。
　カラカラとキャスターを鳴らして、にぎやかなほうへとアリサは歩き出している。