寝子暦1371年のハッピー・ハッピー・ハロウィン☆デイズ！｜リアクション

寝子暦1371年のハッピー・ハッピー・ハロウィン☆デイズ！

　彰尋のスマートフォンの前を、見覚えのある姿が横切った。
　あれ？　彼って？
　それまで彰尋は一心に千里と将尋のハロウィンを撮影していたのだ。しかし驚いて画面から顔を離した。
　目鼻の描かれたベッドシーツをかぶったおばけが、彰尋の前方でおもむろにシーツを脱いだのだ。シーツの目には縁取りがあり顔には物騒な傷があったりしてチープこの上ない仮装ではあったが、正体を隠すには最適だろう。
「ソラ君、じゃないか？」
　呼びかけるとたしかに、振り向いたのは七夜あおいの弟ソラである。鞄をリュックのように背にかけている。
「あ、鴻上さん。トリックオアトリートです」
「どうしてソラ君がここに？」
　あおいは今日九州に発ったはずだ。指摘するとソラは「実はですね」と事情を明かした。
　なんとも無計画な話ではないか。でも行動力は評価したい。
「なるほど下見か。たしか寝子高受けるって話だったしね。でも」腕時計をチェックして彰尋はつづける。「こんな時間まで寝子島にいたら家に帰れないんじゃ？」
　あおいの実家は遠く北関東だ。今すぐここを発っても間に合うかどうかの瀬戸際だろう。
「ひょっとしたらオールナイトとか野宿とか考えてるのかい？　中学生ひとりでそれは」
「それなら大丈夫ッす！　ねーちゃんの友達が泊めてくれることになりましたから」
　泊めてくれる『ことになりました』というひっかかる言い方は、ソラがノープランだったことのあらわれのように彰尋は思った。
「そっか……ならいいけど」
　もし行き先がないなら、家に泊めるよと彰尋は提案するつもりだった。広いわけではないけれど、ひとりくらいなら増えてもかまわない。あおいの弟ならみんな歓迎してくれるだろう。
「外泊のこと、あおいさんには」
　ちゃんと言っているのかいと彰尋が尋ねる前に、ソラのリュックから奇妙な音が鳴った。
「あ、すいません電話っす」
　断ってソラは電話に出た。どうやら連れとはぐれていたらしく、なにやら言葉をとりかわしている。
「はい。じゃあそこで待ち合わせで。えっ、車呼んでくれるんすか！？　そんな俺歩いても……えっ、もう呼んでる？」
　恐縮しつつソラは電話を切った。ただ彼の『すいません』は『サーセン』に聞こえてならない。
「じゃあ俺、合流しますんで今日はこれで」
　また機会があればと頭を下げて、ソラはシーツをかぶりなおしどこへやら駆けていった。
　あの様子じゃ、あおいさんには知らせてないっぽいな。
　ばれたら怒られるだろうなと彰尋は苦笑する。顔はよく似ているのに、万事堅実なあおいとは正反対なまでの出たとこ勝負の性格ではないか。
　でも、ソラ君も寝子島のハロウィンを体験できたみたいだし、いいのかな。
「お兄ちゃーん」
　千里の呼ぶ声に我にかえり、すぐ行くと彰尋は返事した。