寝子暦1371年のハッピー・ハッピー・ハロウィン☆デイズ！｜リアクション

寝子暦1371年のハッピー・ハッピー・ハロウィン☆デイズ！

　初カレと、ハロウィンデートで有頂天。
　見事な五・七・五。一句ひねってしまう茉奈である。
　カノンと並んで歩く。誇らしい。それこそ小学生からおばさままで、ちらちらとこちらを見る女性は何人もいる。ちょっとすれちがっただけなのに、自分の彼氏をほっといてカノンに見とれている女性もいた。全員羨望のまなざしだ。指をくわえんばかりにしているご婦人もいるくらい。本当、誇らしい。うらやましいでしょと言ってあげたい。この超超超超イケメンの、彼女はあたしなんですよと悪役令嬢よろしく高笑いしたい。鼻が高くなって高くなって、ピノッキオみたいになってしまいそうだ。
　ところがカノンは女性陣のジェラシックな熱視線にはてんで無頓着な様子で、「茉奈の服装。可愛いから注目を集めてるんだね」なんて言ってくれるのだ。なんて素敵な鈍感具合か！　幸せすぎて死んじゃうかもしれない。
　カノンは吸血鬼ハンターのようなコスチュームをしていた。つばの広い帽子に黒いレザーコート、腰にサーベルをさしている。でもでも顔立ちが高雅すぎて、どこかの国の王子様が、お忍びで剣をとったようなミスマッチ感があった。指に光るシルバーリングは桜のお手製、なんともクールなこのデザインは、茉奈としっかりペアになっている。
　桜の彼氏もいい線いってるけど、せいぜいクラスの人気者レベル、マイダーリンのカノンは芸能人レベルであり格がちがうと、茉奈はひそかに思っている。（もちろん失礼なのでそんなことは言わないが）
　恋をすると人は変わる、というけれど。
　茉奈は考える。我が身の来し方を思うと、反省することしきりである。
　あたしの場合はそれまで彼氏ができなかったせいで随分と焦りまくってたけど、いざ恋人できると、見境なしに暴走するのはどうよって、我に返った。
　それでも！
　初めて彼氏できて有頂天になるのはどうしようもないではないか。
　いざ付き合ってみると少女漫画みたいなことって起きないよな、と思ったら――。
　耳まで赤くなる茉奈だ。ごく当然のようにカノンが、手を握ってきたのだから。
　どうしよう、握り返すしかないではないか。
　……あああもうじれったい！　でもこういう感じだよね、恋って！

　茉奈たちのやや前方、桜と匠は並んで歩き、パレードという非日常を楽しんでいた。
「じつはハロウィンのパレード参加するの初めてなんだ」
　匠が言った。
「そうなんだ。私は、わりと参加してきたかな」
　

　といっても桜が自分から参加を強く希望したことはこれまでなくて、大概は茉奈や弟など、参加したがる人に付き合ってきたという流ればかりではあったが。
「どうしてか、って？」
　鼻の頭をかきつつ匠は言った。
「なんていうか、ぱーっと日頃の憂さ晴らし、なんてノリは自分のなかになかった、っていうか、ぶっちゃけ仮装するのに尻込みしてたっていうか。ほら、お祭りなんだから半端な気持ちで加わるのには抵抗があったかな、これまでは」
　桜は暖かい気持ちになった。お祭りであれついこんなことを考えてしまうあたりが、匠のストイックさだと思う。
「いいんだよ、お祭りだし。軽い気持ちで参加したら」
　それで、と桜は言う。
「仮装パレード初参加のご感想は？」
　意外と、と照れながら匠はうなずくのである。
「気持ちいいかも」
「でしょ？」
　ふふっと桜が笑うと、はははと匠は返すのである。匠の指にはシルバーリングが光っている。桜が作ったものだ。もちろん桜の指にも同じデザインのリングがあった。
　ちょうどいい、と桜は思う。
　甘くもなければ冷たくもない、でもこの距離感がたまらない
　ベタベタするのは好きじゃないし、夢中になるあまり痴話げんかしたりするのも避けたい。
　でも――。
　桜の心臓がはねた。それにとどまらない。激しくビートをきざみはじめる。
　あっ……。
　私、滝沢君と手をつないでる。
　どちらから握ったわけでもない。いつのまにかごく自然に、彼の手と自分の手が重なりあっていたのだ。