寝子暦1371年のハッピー・ハッピー・ハロウィン☆デイズ！｜リアクション

寝子暦1371年のハッピー・ハッピー・ハロウィン☆デイズ！

　ハロウィンパレードは出入り自由だ。
　道沿いにチェックポイントの店があれば、抜け出て合言葉をとなえに行く。これも必須ではない。気になる店ならば行けばいいし、ピンとこなければスルーしてもいい。通りに面した店ばかりではなく、ちょっと奥まった場所、いささかルートから外れた場所にも協賛店はあるのだが、マメにスマホでチェックしていけば見逃すことはないだろう。
「トリックオアトリート！」
　まるで魔法だ。この言葉ひとつで、小さいけれどお菓子がもらえるのだから。
「ここはクッキーだったね」
　小さなクッキーを真白はひと口する。紅美はすでに食べ終わっており。
「だね」
　ともう次を物色している気配だ。きょろきょろする仕草がリスやハムスターっぽい。
「次は向こうのお店行ってみようよ」
　紅美の提案に「おー！」と一も二もなく紅美は応じるのである。
　
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　パレードに加わり歩きながら、七星はほうぼうのチェックポイントに立ち寄った。
「トリックオアトリート、でしょうか？」
　せっかくスーツ姿できめてきたのだ。かっこつけて言い切りたいのだけど、あまり英語が得意ではないという自負があるからか、どうしてもはにかみが顔を出してしまう。
　ある喫茶店で焼きたてのマドレーヌを受け取ったときだ。
　香ばしくやわらかい菓子に歯を立てようとしたとき、背後で「えー！」という声が聞こえた。
　ふりむいて七星は知った。ちょうど自分のところで配布が終了になったのだ。『お菓子は終了しました』という張り紙がぶら下げられていた。これを目にした小さな女の子が悲痛な声をあげたのだった。
　ああ、最後の一個だったのですね。
　さしあげましょうか。
　七星は女の子に声をかけるのである。
「ほしいですか？」
　急に大人（未成年の七星であるが、女の子からすれば大人に見えるはずだ。上下黒のスーツでもあるし）から声をかけられたのである。驚いたのだろう、女の子は身を隠すようにしながらも小声で「ほしい」と言った。
　このままあげてしまってもいいのですが。
　笑みを浮かべる七星である。
　だけど、やくそくごとはやくそくごとなので、きちんと、行っていただきますわ。
「合言葉がないと、こいつは渡せないな」
　大人の男性のようにふるまってみる。腕組みなどしてみたり。
「トリックオアトリート」
　消え入りそうな声ではあった。けれどたしかに七星は合言葉を受け取った。砂浜にあった小さな美しい貝殻を見つけたような気持ちになる。
「はいどうぞ」マドレーヌを手渡す。惜しい気持ちはまったくなかった。
　ふふ、と女の子を見送りながら七星は笑むのだ。
　演技するというのも、やってみたらたのしいものでしたわね。
　七星は思い出した。最近発売されたゲームに、そんなキャラクターが出てくるという。
　私、ゲームはやらないので詳しくは存じ上げませんが、ふわっとしたときときりっとしたときのギャップがいいようですわね。
　かりそめとはいえ誰かになりきる、なりきって楽しむ。それがハロウィン☆デイズなのだ。