ピョンっ！と跳ねて、新春☆初夢フェア２０２３！　～茄子編～｜リアクション

ピョンっ！と跳ねて、新春☆初夢フェア２０２３！　～茄子編～

　青い空。煌めく海。白い砂浜。名前もわからないけれど、何だか南国っぽい草木。

「南国だー！！」

　それらを目の当たりにして、初瀬川理緒は両手を大きく上げながら絶叫した。その、まさしく『絶叫』としか言いようのない喜びの声に、隣に居た佐和崎紗月がくす、とさやかな笑い声を零す。
　恋人のその、どちらかと言えば微笑ましげな笑い声を耳にして、う、と理緒は我に返って赤くなった。けれども、ぽり、と頬を掻いて明後日の方を見つめながら、仕方ないじゃない……と言い訳のように呟いた。
　グラドルとして日々忙しく過ごす理緒にとって、オフの日は大変に貴重なのだ。ましてこうして寝子島を遠く離れ、南国にまでやって来ることなんて、そうそうないと言っても過言ではない。
　――とはいえ、完全に仕事とは無関係のオフなのかと言われると、それもまた違うのだけれども。今回、南海の孤島でグラビア撮影をするにあたり、撮影スケジュールの都合とクライアントのご厚意で前乗りすることになって――これまた航空便の都合で前日昼過ぎの到着しかなかったため、実質、今日は半日オフになった、という訳だった。
　閑話休題。

「まあ、細かいことは置いといてさ。今日は思い切り遊ぼうよ」
「うん、理緒ちゃん。せっかくの海だもんね」

　あからさまに話題を変えつつ、ほら、と手を伸ばした理緒に、紗月は微笑みながら頷きその手を取った。寝子島にだってもちろん海はあるけれど、南国の海はやっぱり、どこか違う。
　ゆえに日焼け止めクリームはたっぷり塗って、明日の撮影には影響ないように万全の対策を施しつつ――そこは理緒も紗月もプロだ――海の中に、ざぶん！　と思い切り飛び込んだ。

「わ、思ったより冷たい……！」
「ほんとだ。すごく綺麗だね」

　途端、思い思いに歓声を上げる少女達である。南国、と言っても海自体が暖かい訳ではないみたいで、足に纏わりつく波しぶきは心地良い冷たさだ。
　海面を見下ろせば、足を下ろした海底の砂の粒まで見えるほど、透明度が高い。きめの細かな海底の砂の上には、幾つもの貝殻と、その上を悠然と泳ぐ色鮮やかな小魚の姿まで見えた。
　うわぁ、とその小魚を捕まえてみようと両手を海中に差し込むも、小魚はひらりと身を翻して逃げて行ってしまう。そうなると余計に燃え上がってしまい、きょろきょろと海中に目を凝らしながら小魚の姿を探す理緒の横で、紗月は色とりどりの貝殻を拾い集めていて。
　クライアントのプライベートビーチだという砂浜は、理緒と紗月以外誰も居ない貸し切り状態。もちろん時々、スタッフが様子を見に来たり、明日の撮影スポットを探しに来たりするから、完全に2人だけという事はないけれど、気の向くままにはしゃいで遊ぶ理緒たちの事は、どうやら放っておいてくれるらしい。
　ゆえに思う存分に魚を追い、貝殻を集めた後は、互いに水をかけあってはしゃぎまわる。あっという間に全身がびしょぬれになった頃に、1度上がって身体を温めつつ日焼け止めクリームを塗りなおしたら、次は少しのんびりと海につかって、波に揺られるままに海面に浮かび、空を見上げた。

「楽しいね、理緒ちゃん」

　波の音に紛れるような、ささやかな声で紗月が呟く。うん、とそれに理緒は応える。
　こうして2人で漂いながら空を見上げていたら、まるで、世界中で2人ぼっちになってしまったかのよう。それはどこか寂しくて、不思議で、そして何より繋ぎ絡めた指が甘い。
　するりと指を絡めたまま、2人で空を流れる雲を見上げていたら、砂浜の方から「おーい」と呼ぶ声がした。

「理緒ちゃん、紗月ちゃん、そろそろ戻ってー！　ここ、夕方になると潮が速くなるらしいからー！」
「はーい、解りましたー！　――戻ろっか、紗月」
「うん、理緒ちゃん」

　その声に1度、大きく手を振って応えてから、2人は絡めた指を名残惜しく外して、浜の方へと泳いでいく。ふと見上げた太陽は、確かに夕暮れの気配を漂わせ始めていた。