グルメな風が、ふわふわほわわ～ん☆｜リアクション

グルメな風が、ふわふわほわわ～ん☆

　バレンタインの歴史を紐解くと、西暦1207年にさかのぼる。
　かつて、ローマには、クラウディウスという皇帝がいた。
　皇帝はたぶんむしゃくしゃしていたのだろう。男どもに「結婚は禁止じゃ！　てめーら家族が出来ると、『家族大事だから死にたくありませーん』とか言って兵士としてちゃんと戦わなくなんだろーが！」とかなんとか言って結婚を禁止してしまったのだ。
　それに抵抗したのがヴァレンチノ司祭。
「愛は尊し！」
　と皇帝に秘密で若者たちの結婚を行った罪で、2月14日に処刑されてしまったのである。
　人々は彼の勇気を称え、司祭が処刑された日を「聖バレンタインデー」と呼ぶようになったそうな。

　それから数百年後。
　世界情勢やチョコメーカーの陰謀などによって、バレンタインはチョコレートの日になった。

◇

「たぁぁっ、皇帝クラウディウス！　結婚禁止はあかんでー！」
「人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて当然だ！」
　空中で、鹿園斐美と琴触昴のクロスキックがさく裂する！
　高く蹴り上げた二人のかかとが重なると、光が弾け、チョコレート菓子がぽんぽんぽんっと飛び出してくる。
「おおー、バトればバトるほどチョコが沸いて出るやん！」
「いったいどうなっているのやら」
　説明しよう！　ここはチョコレートでなんでも出来る世界。
　チョコに関することならなんでも願いが叶うのだ！
　スイーツに目がない斐美は、クロスキックから飛び出したチョコレートケーキをぱくり。
　

「おいしー！　スバルん、もっとやろ！」
「調子に乗るなよ、ビビ。私はビビほど甘いものは得意じゃないぞ」
「大丈夫、大丈夫！　うちがぜーんぶ食べたるわー！」

◇

　チョコの羽でふわふわほわわ～ん☆とお空を飛んでいるのは、自称天使の橘明里だ。

「わーい、チョコの翼なのなの！　頭のわっかもチョコなのよ～」
　チョコ特有のあま～い匂いが明里が飛んだ軌跡となって漂っている。
「これなら飛びつかれてお腹が空いちゃったときも安心なの！　わっかをひとくちパクッと食べたら元気リンリン、勇気百倍！　どこまでだって飛べちゃいそうなのよ～」
　そうして楽しく飛んでいると、これはびっくり、お馬さんがいるではないか！
「チョコの馬さんが走ってるのー！」

◇

　白馬ならぬチョコの馬の手綱を握っているのは八神修だ。
　彼に守られるようにして、七夜あおいも横乗りにチョコ馬に乗っている。

（あおいと作るならどんなチョコがいいかな、なんていろいろ妄想したことはあったけれど……
　馬か！　正直、思いつかなかった！）
　修は馬が好きだ。
　上流階級の家柄である修にとって乗馬は嗜みのひとつであったが、それ以上に馬を愛してもいる。
　もちろんチョコ馬はこの世界が生み出したもので、修が作ったわけではないが、それでもチョコの馬が動いて走っていることに感動する！
　あおいもこの状況を素直に楽しんでいるようだ。
「すごいすごい！　修君、チョコ馬の王子様だね！」
「いつか白馬で君を迎えに行くのが、俺の夢だけれどね」
　修は「ハッ」と掛け声をかけて、馬を駆歩で走らせた。
　上空を飛ぶ明里が、楽しそうに馬についてくる。
　あおいは思わず修に身体を寄せた。
「は、速いよ、修君」
「こわい？」
「ちょっと」
「はは、大丈夫。しっかり掴まっていて、あおい」
　あおいは修の体に腕を巻き付ける。
「そうそう。力を抜いて、俺にゆだねていてくれたらいいから」
「もうっ……振り落とさないでね、王子様？」

◇

　楡宮遠海がチョコレートのキーボードを奏でている。
　音といっしょに飛び出してくるのはチョコレートの音符だ。
　遠海は音符チョコをひとつ摘まんで口に放り込む。

「んん～～っ、あっま～いっ！」
　こんなに口の中が甘くっちゃ、奏でる曲も甘くなる。
　一方こちら。

「はいよ！　いくら一丁！」
　男勝りな寿司屋の娘、琴村嬢の掌の中から生み出されるのは、なんとなんと、お寿司のチョコ。
　あなごにまぐろ、えびにサーモン、玉子もある。
「どうだい、寿司チョコ！」
　嬢の威勢のよい掛け声に反応したのは痩せの大食いでもある遠海だった。
「いただくわ」
　そういって、ぱくぱくぱくとあっという間に十貫の寿司チョコが遠海のお腹の中に消える。
「代わりに音符のチョコはいかが？」
「へええ、こいつは面白いね」
　お互いのチョコを食べ合って、出てくる言葉はもちろんこれだ。

「「あっま～～～～～い！！」」

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