幽霊だって恋をしたいッ！｜リアクション

幽霊だって恋をしたいッ！

「ねぇ、アタシとちょっと遊ばない？」
「え？」
　八城昌也が声をかけた美少女。それは音海なぎさだった。
　音海は声をかけられて困惑する。
　当然といえよう。男なのか女なのかよくわからない八城昌也に声をかけられれば、誰だって戸惑うことしかできない。
　その上音海は、黒い傘に黒いロングスカートという女性的な格好をしている。
　相手は彼を男と思っているのか、女と思っているのかも分からず、どう反応するべきか悩む時間を要した。
（たぶん、女の子だと思われてるよね？）と思うものの、相手がムギュっと押し付けているものも紛う事なく胸。
（えっと、この人も女の子、かな……？）
　そろそろと様子を覗うが、やはり男性にしか見えなかった。
「ご、ごめんなさい」
　音海はとりあえず謝って、一目散に逃げることにした。それが最善に思えたから。
　そしてそれがどういう事象をうむか、知る由もなかった。
「うん？　なんか、身体に違和感が……」
　走っているうちに音海は自身の変化に気がつく。
　胸。やわらかな胸。
（大きくなってる……）
　手を当てて確認するが、音海はそれほど動揺せずにその現実を受け入れていた。　
　それは、ロマンちっくな夜を……と思って、雨傘と合わせた黒のロングスカートを着ていたせいで、どうせならと『スイッチ』を入れておいたせいで、彼自身が幽霊を認識できないせいだ。
（あら、この人も男だったの……！）
　幽霊は衝撃を受けたが、それ以上の心地よさを感じていた。
　いままで憑依した誰よりも、互いの精神が溶け合い、シンクロしているから。
「ボクは……ううん、私は女の子。
　誰かを求めてさまようの――私を愛してくれる誰かを求めて」
　音海は無意識に笑った。
「探すなら駅の辺りがいいと思うよ」
　誰に向かって言っているのか音海自身わかっていない。
　けれど柔和な笑みをたたえたまま、静かに声に乗せる。
「人が多いところで濡れていたら、もしかしたら傘を差し出してくれるイケメンが来るかもしれないね？」
　音海は傘を放り投げて、踵を返した。

（違うんだ、アレは俺じゃないんだ……）
　御剣は鬱々と駅のベンチに座っていた。
（あの幽霊、本気で許さない）
　許さなかったところで彼は幽霊を見ることはできないのだが、そう思わなければやってられない。
　そこへ、傘もささずにフラフラと歩く音海がやってきた。
　真っ黒なスカートはより色を濃くし、細く長い肢体を浮かび上がらせていた。
（綺麗な人だな……）
　そう思うと、御剣は無意識に傘を差し出していた。付け足すように「……風邪、ひくぞ」と口にする。
　しかし、音海は受け取ろうとしない。
（仕方ないな）
　御剣が強引に握らせるようと音海の手に触れた瞬間。
　キン。と背筋が凍った。
　デジャヴ。
　すかさず御剣は飛び退いて、傘を上段に構えた。
「もしかして……お前、巨乳幽霊か！」
　音海は目を見張る。
「その人から出て行け！」
　御剣は音海の鼻先に傘を付ける。
「なんで、邪魔ばっかり入るのかしらね」
　悲しげに微笑んでから、音海はフッと意識を失った。
　急いで御剣は音海を受け止める。
「あれ、男!?」
　御剣のときめきの相手が男。
　そんな事実を突きつけられたが、しばらく音海は目覚めそうになかった。