幽霊だって恋をしたいッ！｜リアクション

幽霊だって恋をしたいッ！

　シーサイドタウンで、ウインドウショッピングを楽しんでいた雨寺凛。
　そろそろ帰ろうかなと桜花寮の方に向かうと、「零葉ちゃん！　雅人くん！」哀坂零葉と千鳥雅人に遭遇した。
「あれ、こんな遅くまでどうしたの？」
　何気なく雨寺が尋ねると、ふたりは同時に赤面して「ぶ、部活ですっ」と口を揃える。
「そ、っかぁ？」
　なんだかおかしなふたり。雨寺は首をかしげたが、そそくさと去っていってしまった。
（零葉ちゃんと一緒に帰ろうかなと思ったのになぁ……）
　雨寺はがっくりと肩を落とした。
　ひとりで帰るのも寂しいしもう少しぶらつこうかなと踵を返すと、（あれ？）違和感を覚える。
（なんかブラがキツくなった？）
　気のせいかもしれない。そう思って胸に手をおいてみると（わわ、なんか急におっぱいが膨らんでる!?）あっという間にブラジャーに収まりきらないほどの巨乳に育ってしまった。
　自然と足はシーサイドタウンに向く。
（なんだろう、すごく人恋しい……！）
『でしょう？　だから一緒にラブラブしましょう？』
　心臓が耳のそばにあるんじゃないか。そう錯覚するほど、雨寺の鼓動が高鳴った。
（それも、男の人がいい……ど、どうしたんだろう、私）
　幽霊はニヤリと笑い、ゆっくりと雨寺の思考が溶かしていった。
　『男に触れたい』。その感情を残して、あとは雨に飲まれたころ、雨寺はシーサイドタウンの繁華街に立っていた。
　近くを男性が通るたびにジワジワと己が昂ぶっていく。
　恥ずかしいという感情よりも、声をかけたい、触れたいという欲望が強くなり、一歩を踏み出した。
「ねぇねぇ、私と一緒にラブラブなセッションしなーい？」
　雨寺は近くの男の肩に触れる。
「え、え!?」
　突然声をかけられた八城昌也の肩は大きく跳ねた。
（…って、何言ってんの私ー!?）
　雨寺は内心、滝のような汗をかく。
「そうだよー？」しかし口から飛び出る言葉は正反対だった。
「え、っとあそびたいなら他の子も呼ぼうか？」
「ふたりっきりがいいの～！」
　ぐいぐい迫る雨寺と、どうにかしてふたりきりを避けようとする八城。
「カタいこと言わずにさぁ、一緒に遊ぼうよー♪」
　ムギュっと雨寺が八城の腕に胸を押し付けた瞬間。
　胸の大きさに耐えられず、雨寺のブラジャーホックが『ぷつり』と音を立てて弾けた。
「あー、もう我慢できないや！　いちゃいちゃしようよ！」
　その音が契機となった。悩みは吹き飛び、欲望に飲まれる。
「えへへ、なんだかくっついてるといい気分～♪」
　恍惚と、雨寺は八城にしなだれかかった。
　八城は硬直して、押し黙る。
　雨寺はゆっくりと八城に唇を近づけていった。

「雨寺？」
　そのとき近くを通りかかった霧生深雪が声をかける。彼は寝子高芸術科の先輩だ。　
「センパイ……？」
　惚ける雨寺は声の方を向いた。
「……相手が、困ってる」
　そう言う霧生の表情を見て、雨寺の頭のもやは少しずつ晴れていった。
「あ、あれ、私、いったい何を……？」
『ああ、もう余計なことを！』
　雨寺が完全に自我を取り戻したことにより、幽霊はむりやり追い出された。
　雨寺のもとに残ったのは急速に縮まった胸と彼女の腕の中で固まる八城。
　それらを凝視して、「!?」一気に雨寺は茹で上がった。
「ああっ、ご、ごめんなさい!!　なんか急に変な気分になっちゃって……!!」
「だ、大丈夫だよ、お、女の子にもそういう欲望があって然るべきで……」
　プルプルと震えながら八城はフォローにならないフォローを入れた。
　その結果、余計に雨寺の中の羞恥心が増幅することになる。
「うわあああっ！　恥ずかしいよおおおっ!!」
　雨寺は恥ずかしさのあまり両手で顔を隠して、泣き出してしまった。
　困ってしまう八城と霧生。
（仕方がない……）
　野次馬に徹するつもりだった旅鴉月詠が三人の前に姿を現した。
「えっと、だな。実は――」
　旅鴉は騒ぎの原因を話した。もちろん自分がけしかけたということは省いて。
「そ、ういうことだったんだ……」
　雨寺はぼんやりと安堵の表情を浮かべた。
「大変だったな」
　霧生は雨寺の頭を撫でて、慰める。
「センパイありがとう……」
　そんなふたりを微笑ましいなと見ている旅鴉に八城が尋ねた。
「そういえば、どうしてそんなことを月詠ちゃんは知ってたの？」
「え、」
　それを聞かれたら困る。
　旅鴉は「偶然知ってな、」とぼかしてから「もう少し奴を追いかけるつもりだから失礼する」とそそくさとその場を立ち去った。

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幽霊だって恋をしたいッ！

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