幽霊だって恋をしたいッ！｜リアクション

幽霊だって恋をしたいッ！

　蒸し暑いのはかなわん。
　そう思ってＹシャツを着ていなかった夏神零の肌に、ブレザーが重くまとわりついた。
（変なところで時間を使ってしまったのでござる）
　傘を忘れたため、キャットロードを通っていこうと思ったのに、なぜか風が雨を運んできてしまったのだ。
　肌に張り付くブレザーなど、不快なことこの上ない。
（……致し方あるまい）
　彼には魂行凪との約束があった。
　服を着替えることもできないし、あまり魂行を待たせるわけにもいかない。渋々、夏神はブレザーの袖から腕を抜いた。
「!?」
　そのとき初めて夏神は気がついた。
　女性と見まごうほど大きくなった胸に。
「さては憑依……！」
　体の気だるさ、体の変化、そこから導き出した彼にとって身近な理由。幽霊の仕業に違いない。
　すかさず除霊の準備を始める。
「あ……！」
　しかしそれどころではない。
（誰かにこの姿を見られでもしたら……）
　シャツを着ていないため、すべてを晒した状態である。
「ッ！」
　夏神はブレザーのボタンを強引に留め、一目散に駆けていった。

（あ、この子男だったの……？）
　幽霊は中に入ってから気がついた。『間違えた！』と。
（ま、恋人がいるみたいだから合流したら入れ替わろーっと）
　それまでは恥ずかしがって走っている夏神の感情を堪能する幽霊だった。

　気がついたときには、夏神神社の前だった。
　すっかり濡れそぼった夏神は、息を整えて鳥居をくぐり抜ける。
「はぁ……はぁ……」
　ゆっくり進んでいくと、そこには魂行凪が佇んでいる。
「れ、い……？」
　魂行は目を丸くする。
「あ、あ。そうでござる」
　一度着替えてきたのだろう。ポンチョの裾を掴み、おずおずと夏神に近づいていく。
「零……女、なった？」
　胸を凝視され、夏神はカっと頬が熱くなった。
「いやいやいや、性別はオレ……いや拙者はオトコであって容姿はオンナみたいじゃがでも今はオンナ？
　どうしちゃったの、オレ？　いや、ワタシ？」
　夏神が混乱のあまり目を回す。
『ふふ、いい具合に私色に染まってきたわね』
　知らない女の声が夏神の脳内に響いた。
「なッ」
　夏神が反論しようとすると、魂行がその腕を引っ張った。
「……えっと、中、入ろ？」
「あ、え、わかったでござる」
　幽霊を携え、ふたりは夏神の部屋に向かうのだった。

「零……どうして？」
　部屋に入ると、魂行は不安げに夏神を見つめた。
　可愛い可愛いと思ってはいたが、まさか本当に女の子だったの？
　そんな不安が湧き上がる。
　少し冷静さを取り戻した夏神は、魂行の肩に手をかけて言った。
「拙者は男でござる」
「じゃあ……これ、」
　魂行は夏神のボタンを外して、服の中を覗き込む。
「って……凪ちゃん!?　あんまり見ないでッ」
「おっぱい……大きい、」
　言葉を無視して、小さな手が夏神の胸に触れる。
「らめぇっ！」
　夏神の口から甲高い声が漏れる。が、すぐさま必死に平静を装って状況説明に努めた。
「ど、どうやら取り憑かれたらしいのでござる。速やかに除霊の儀を行えば、大事ない」
「よかった……」
　魂行はホっとして、夏神にしなだれかかった。
『除霊ですって!?　アイツ……私を騙したのね！』
　幽霊はとんでもないと叫ぶ。
『それなら、こうしてやるわ……』
　魂行に危害を及ぼす気では？
　夏神はすかさず魂行から飛び退くと、胸がすっと軽くなった。
「な、」
　その代わりに魂行の胸が見る見る間に膨らんでいく。
　小さなポンチョには収まりきらないほどの巨乳に育ち、ついにはポンチョの裾が二センチほど上がってしまうまでになった。
「…っ…やっ……！」
　魂行が恥ずかしそうに身をよじった。
　いつもはギリギリで秘部を隠しているポンチョも、今は役に立っていない。
（なんでこの子下着つけてないの!?）
　幽霊は想定外の事態に困惑する。
「凪、ちゃん……？」
　夏神の声が震えた。
　普段ならば羞恥心など皆無の魂行が悶えている。
　見てはいけない。
　そう思いながらも、夏神はその艶姿から目をそらせなくなっていた。
「見ちゃ……駄目……」
　潤んだ目で魂行は夏神を見つめる。一所懸命にポンチョを引っ張って下半身を隠そうとしている。
　夏神の喉が鳴った。
　魂行にそろりそろりと手を伸ばす。
「だ、だめ……！」
　部屋に風が巻き起こった。
　ポンチョの下は顕になり、隠そうとした努力は水の泡。
「凪ちゃん、落ち着くでござる」
　夏神は風を恐れず、魂行を抱きしめた。
「零、」
　風はゆっくりと収まっていき――そのときには魂行の胸も元通りになっていた。

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幽霊だって恋をしたいッ！

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