I'll be there - 仲良くなりたい、その10｜リアクション

I'll be there - 仲良くなりたい、その10

　ここ、とじゅんが足を止めたのはロリータファッション専門のブランドショップだ。この店にとどまらない。この周辺、つまりデパート女性フロアの一角には、同系統の店が軒をつらねている。
　最先端の場所ゆえか、出入りする女性たちも雑誌から飛び出でてきたような格好にメイクだ。伝統的なゴスロリにとどまらない。もっと白っぽくて『不思議の国のアリス』みたいなクラシカル、チャイナドレスとクラシックバレエの融合的な中華ロリータ（華ロリ）、着物を絢爛にしたような和ロリータ（和ロリ）、古典少女漫画の世界さながらの男装姿もいる。
「ここだと」
　じゅんが笑った。
「あたしなんて地味なほうよ」

　地味は言いすぎにしても、じゅんがごくごくなじんでいるのはまちがいない。こんな世界があったのか。ベルサイユ宮殿にいそうな貴婦人が、超ミニスカ仕立ての着物女子と歓談している。白塗りメイクで無表情、けれど悠然と歩む暗緑色のサロペットスカート女性が、とんがり帽子の魔女と落ち合っていた。ガスマスクをつけた執事もいるが、あれは男装の麗人なのか。執事を連れている和ロリの女性も、九尾の狐という扮装ではないか。奇抜すぎる者もないではないが、個性的という意味ではみな満点だ。うっかり迷いこんだ様子のストリートファッション女子が完全に浮いていた。
「ついてきて」
　目指す場所はもう決まっているのか、するするとじゅんは店に入っていく。さゆるは従った。
「新作出たんだよね～」
　ちょっと高いけど、と言いながら、じゅんはハイウェストのレースワンピースを手にしてほれぼれと眺めている。財布の中身と相談しているらしい。
「……」
　しばらくは黙ってじゅんの買い物を見ていただけのさゆるだったが、だんだん興味が出てきて、自分でも数点、気になるものをたしかめた。ひとくちにゴスロリといっても種類はさまざまだ。耽美小説に出てきそうな怖くて可愛いドレスもあれば、中世ヨーロッパを思わせるソリッドなコルセットもある。スチームパンク風というのか、鋲打ちのレザーブーツも格好いい。
「こちら新作になります。試着してみませんか？」
　軍服のような衣装の女性店員に声をかけられ、胸元が大きく開いたVネックのワンピースを示される。生地はワインレッド、首や袖のフリル飾りは黒、スカートの縁にはきめ細かなビジューがあしらってある。ダークでクラシカルながら真夜中に咲く薔薇のごとき華やかさもあった。
「……えっ」
「お客様細身だから、きっとぴったりですよ」
「じゃあ、試すだけ」
　おそるおそる受け取って試着室のカーテンを引いた。
「さゆる？」
　じゅんが探しにきた。さっきのワンピースは買うことにしたらしい。籠に入れている。
「ここ……」
　戸惑い気味に告げ、さゆるはカーテンを開けた。
　姿見で眺めた我が身が自分とは思えなかった。まるでゴシックホラーのヒロインだ。運命に翻弄される清らかな魂のように見えるし、冴え冴えとした外観に残酷さを隠した悪女のようにも見える。赤と黒の色調は白い肌によく合い、この世のものではないような美しさを作り上げていた。
「素敵です……！」
　店員は目を輝かせた。クロッシェを合わせたら似合うかしら……ヒールのある靴も合うかも……とつぶやいているのは、彼女もファッションオタクだからだろう。
　いっぽうでじゅんは、ぼうっと見ているだけだ。言葉も出ないらしい。じゅんは数秒、呆然と立ちつくしたのちようやく、
「似合いすぎるよ、さゆる……」
　なかば嫉妬、なかばまぶしそうにそう言ったのだった。
「……脱ぐね」
　カーテンを引こうとするさゆるの手に、じゅんは小さな手を重ねる。
「買うしかないよね、それ。買わないなんてありえない……！　今日、店休みだし家で着てよ」
　じゅんは身を寄せ、さゆるの耳に熱い吐息とともにささやいた。
「さゆる……今夜は一晩中いじめてあげる」