- 0
- 0
- 種族
-
- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
- AAA000000
しずくがこぼれおちるとき＜黒＞
──霊界 忘れられた廃駅
その日、霊界は未曽有の震動に襲われた。
地の底から響く激しい揺れの震源は、霊界においても不可思議なスポットとして名高い、通称積み家。十里の先からも見えたというその崩壊には、黒く、そして青い光を内包する、奇怪な闇の奔出を伴ったという。
「つらかったよね」
みい、と力なく鳴いた、黒い毛並みの猫又の子へ、餅々 きなこは語りかける。
寝子島にてみなの無事を確認し、きなこは霊界へと戻ってきた。事の顛末を見届けるためだ。
荒野にぽっかりと建つ積み家を遠巻きに眺めて。
「いやなこと、いっぱいあったよね。いたいことだって、あったよね。でも、まもりたかったんだよね」
みい、みいと、呼び声は儚く震動に溶けてゆく。
「しずくちゃんの……かぞくの思いがつまった、たいせつなばしょだもんね」
積み家の壁から、屋根から、その周囲からとめどなく、闇は噴き出した。突き破り、打ち崩しながら迸り出る闇はまたたく間に、家屋の原型もとどめぬほどに家々を食らい尽くしてゆく。
そこに食らうものが無くなれば、触腕は四方へ伸びてゆくだろう。
やがて積み家は完全なる倒壊を喫し、闇は胎動を始めた。
「……無くなっちゃったね」
きなこは弱々しく眉を下げる。
「いこう、ねこちゃん。もう、うまれかわらなきゃ。だいじょうぶだよ、きっとまたいつか、しずくちゃんのたましいとめぐりあえる時が……」
不意に黒猫が駆け出した。止める間もなく。
「あっ、ねこちゃん！？」
思えばあやかしだ、幼さに似合わぬ俊敏はまさしく、妖怪としての能力だろう。
先を行く黒猫を浮遊して追うきなこの目に、青い輝きが飛び込んできた。
「あ、あれって……！」
在るべきでない者を見た。
滴だ。ぼんやりとたゆたう、黒白 滴の幻像がそこにいた。
黒猫は一目散に駆けてゆく。
みい。みい。みい。
滴も気づいたろう。くるり、振り返る。憔悴したような顔がゆるりとほどけ、喜びに染まり、
「だ、だめー！！」
みい、みい、みい。
幾年月を経ての邂逅が果たされるその直前に、爆発的に膨らむ青い闇の触腕が滴を捕らえ、己が内に取り込んだ。
呼び声が、悲痛に歪む。
少女の相貌には再び諦観と絶望がにじみ、表情はくしゃくしゃに崩れて……それでも、儚く黒猫へと笑いかけ。
ごめんね。
そうつぶやいて、黒く、青く染め上げられ、やがて深くへと呑まれていった。
「ああ。霊界が……」
青い闇、きなこが呼ぶところの『どろでろろ』は、霊界の全てを暗雲のごとく覆わんと広がってゆく。
しかし、いずれそれを果たしたとて、尽きることのない肥大欲は満たされまい。
闇がうごめき、どろりと人の形を成す。嘲笑めいて唇を歪め、落ちくぼんだ目は青く輝く。
寝子島の美しい自然を、活気あふれる街並みを、全て黒く染め上げる。その愉悦を想像してか、闇は打ち震えた。
＜了＞
その日、霊界は未曽有の震動に襲われた。
地の底から響く激しい揺れの震源は、霊界においても不可思議なスポットとして名高い、通称積み家。十里の先からも見えたというその崩壊には、黒く、そして青い光を内包する、奇怪な闇の奔出を伴ったという。
「つらかったよね」
みい、と力なく鳴いた、黒い毛並みの猫又の子へ、餅々 きなこは語りかける。
寝子島にてみなの無事を確認し、きなこは霊界へと戻ってきた。事の顛末を見届けるためだ。
荒野にぽっかりと建つ積み家を遠巻きに眺めて。
「いやなこと、いっぱいあったよね。いたいことだって、あったよね。でも、まもりたかったんだよね」
みい、みいと、呼び声は儚く震動に溶けてゆく。
「しずくちゃんの……かぞくの思いがつまった、たいせつなばしょだもんね」
積み家の壁から、屋根から、その周囲からとめどなく、闇は噴き出した。突き破り、打ち崩しながら迸り出る闇はまたたく間に、家屋の原型もとどめぬほどに家々を食らい尽くしてゆく。
そこに食らうものが無くなれば、触腕は四方へ伸びてゆくだろう。
やがて積み家は完全なる倒壊を喫し、闇は胎動を始めた。
「……無くなっちゃったね」
きなこは弱々しく眉を下げる。
「いこう、ねこちゃん。もう、うまれかわらなきゃ。だいじょうぶだよ、きっとまたいつか、しずくちゃんのたましいとめぐりあえる時が……」
不意に黒猫が駆け出した。止める間もなく。
「あっ、ねこちゃん！？」
思えばあやかしだ、幼さに似合わぬ俊敏はまさしく、妖怪としての能力だろう。
先を行く黒猫を浮遊して追うきなこの目に、青い輝きが飛び込んできた。
「あ、あれって……！」
在るべきでない者を見た。
滴だ。ぼんやりとたゆたう、黒白 滴の幻像がそこにいた。
黒猫は一目散に駆けてゆく。
みい。みい。みい。
滴も気づいたろう。くるり、振り返る。憔悴したような顔がゆるりとほどけ、喜びに染まり、
「だ、だめー！！」
みい、みい、みい。
幾年月を経ての邂逅が果たされるその直前に、爆発的に膨らむ青い闇の触腕が滴を捕らえ、己が内に取り込んだ。
呼び声が、悲痛に歪む。
少女の相貌には再び諦観と絶望がにじみ、表情はくしゃくしゃに崩れて……それでも、儚く黒猫へと笑いかけ。
ごめんね。
そうつぶやいて、黒く、青く染め上げられ、やがて深くへと呑まれていった。
「ああ。霊界が……」
青い闇、きなこが呼ぶところの『どろでろろ』は、霊界の全てを暗雲のごとく覆わんと広がってゆく。
しかし、いずれそれを果たしたとて、尽きることのない肥大欲は満たされまい。
闇がうごめき、どろりと人の形を成す。嘲笑めいて唇を歪め、落ちくぼんだ目は青く輝く。
寝子島の美しい自然を、活気あふれる街並みを、全て黒く染め上げる。その愉悦を想像してか、闇は打ち震えた。
あとがき
担当マスター：
墨谷幽
ファンレターはマスターページから！
墨谷幽です。『しずくがこぼれおちるとき＜黒＞』のリアクションをお届けいたします。
今回は、笈地 行マスター（と運営部さま）と共同でアイディアを出し合い、二本のシナリオで一つの物語を作る……という、なかなかにアクロバティックな形で執筆をさせていただきました。
＜白＞と＜黒＞で互いにリンクしつつ、一方の出来事がもう一方へ影響を及ぼしたり、ＰＣさんの皆さまの一部も双方へ顔を出したりと、賑やかなリアクションとなっております～。
私としても、らっかみ！としても？ 初めてのことで、難しいところもありましたけれど、非常に新鮮な試みで楽しかったです！
またこういった機会があれば、ぜひ挑戦してみたいですね。
皆さまにも楽しんでいただけておりましたら、とっても嬉しいです。
今回のお話は、始まりにすぎません。
滴ちゃんはどうなってしまったのか？ 寝子島はどうなってしまうのでしょうか？
結末はぜひ、皆さまの目で確かめてください。
ご参加いただいた皆さまと、このような貴重な機会をくださった運営部さま、打ち合わせにお付き合いいただいた笈地マスター、皆さまに感謝を！
それでは、また次回のシナリオでお会いいたしましょう～。
お疲れさまでした！
今回は、笈地 行マスター（と運営部さま）と共同でアイディアを出し合い、二本のシナリオで一つの物語を作る……という、なかなかにアクロバティックな形で執筆をさせていただきました。
＜白＞と＜黒＞で互いにリンクしつつ、一方の出来事がもう一方へ影響を及ぼしたり、ＰＣさんの皆さまの一部も双方へ顔を出したりと、賑やかなリアクションとなっております～。
私としても、らっかみ！としても？ 初めてのことで、難しいところもありましたけれど、非常に新鮮な試みで楽しかったです！
またこういった機会があれば、ぜひ挑戦してみたいですね。
皆さまにも楽しんでいただけておりましたら、とっても嬉しいです。
今回のお話は、始まりにすぎません。
滴ちゃんはどうなってしまったのか？ 寝子島はどうなってしまうのでしょうか？
結末はぜひ、皆さまの目で確かめてください。
ご参加いただいた皆さまと、このような貴重な機会をくださった運営部さま、打ち合わせにお付き合いいただいた笈地マスター、皆さまに感謝を！
それでは、また次回のシナリオでお会いいたしましょう～。
お疲れさまでした！
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
-
- 2022年10月23日
- 参加申し込みの期限
-
- 2022年10月30日 11時00分
- アクション投稿の期限
-
- 2022年10月30日 11時00分
